シネマのまちのつくり方~なら国際映画祭

⑧老舗経営者とアフリカ人監督の共感

なぜ、田原地区で撮影ワークショップが開かれたのか。07年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞した河瀨直美監督作品『殯の森』が地元の支援を得て田原地区で撮影されたからである。大和茶を栽培する茶畑が映され、ポスターにも印象的な茶畑光景が掲載された。「田原」の名は世界の映画関係者に知られるところとなった。

ユネスコは20年2月13日、アフリカの女性監督らを支援する「グラン・ボヤージュ・ウィズ・アフリカ」の開催を公式発表。当時、NPO法人なら国際映画祭はホームページで「20年3月30日から4月12日に実施する」「期間中、奈良市田原地区の民家にホームステイを行う」「2人1組で短編映画を制作する」ことなどを明らかにしていた。作品は20年9月の映画祭で公開されるはずだった。

しかし20年春からのコロナ禍のために延期を余儀なくされた。感染防止の観点から民家でのホームステイ形式は難しくなった。関係者の奔走があって、2年後、奈良市内の民間施設で実施された訳である。

田原地区で暮らす安達は「ぜひ受け入れたいと切望していた。アフリカの女性監督が田原のどんなところに反応して映像に収めるのか、知りたかった。とても残念。次に機会があれば…」と語った。

なら国際映画祭は、2年に1度の本祭で行われるコンペティションにとどまらず、こうした人材育成、地域との連携、奈良の海外発信と地道に取り組んできた実績を有することを強調しておきたい。=敬称略(文化と地域デザイン研究所代表 松本茂章、写真も)

まつもと・しげあき 専門は文化政策、文化を生かした地域デザイン。日本アートマネジメント学会会長。全国紙記者、デスク、地方支局長を経て、県立高知女子大学教授、静岡文化芸術大学教授を歴任。22年5月から大阪市此花区で研究スペース「本のある工場」を主宰。主著に『文化で地域をデザインする 地域の課題と文化をつなぐ現場から』『ヘリテージマネジメント 地域を変える文化遺産の活かし方』(いずれも学芸出版社)など。

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