暴言、威嚇・脅迫…深刻化するカスハラ被害の抑止なるか 埼玉県防止条例が7月1日施行

顧客が従業員に理不尽な要求をするカスタマーハラスメント(カスハラ)を防ぐための県の条例が7月1日、施行される。条例はカスハラ防止の基本理念を示し、顧客や事業者などが果たすべき責務を規定。誰もが安心して働くことのできる環境の整備を目指す。

「社会全体でカスハラ防止を」

条例はカスハラを、「顧客らの言動が社会通念上許容される範囲を超え、就業者の就業環境が害されること」と定義。基本理念に、「社会全体でカスハラ防止を図らなければならない」「何人もカスハラを行ってはならない」などの柱を掲げた。

各主体の責務も盛り込まれた。顧客らには就業者への言動に必要な注意を払うよう努めること、事業者には就業者の相談体制整備、カスハラ対策の基本方針の作成・公表に努めることを求めるなどしている。

一方、条例に罰則は設けられておらず、県は優良な取り組みを行う事業者を表彰することなどを通じ、カスハラ防止の機運醸成につなげていきたい意向だ。

大野元裕知事は今月8日の記者会見で、「事業者が必要な対策を行えるよう、県としても取り組んでいきたい」と述べた。

暴言、威嚇・脅迫…退職に追い込まれる者も

顧客によるカスハラ被害は各地で深刻で、対応した従業員の精神的ダメージの大きさも指摘される。

関東地方を中心に生活用品などを販売する会社で、労働組合の委員長を務める50代男性のもとには日々、切実な声が届く。

40代の女性従業員のケースは、店舗にやってきた中年男性客からの問い合わせから始まったという。希望する商品のサイズがないとの申告を受けたが、店舗に在庫はなく、メーカーからの取り寄せになると伝えた途端、男性客は激怒。「(同社系列の)別の店舗に商品があったら、責任をとれるんだろうなあ」とすごまれ、怒鳴り散らされた。

女性従業員が「怖いのでやめてください」と訴えても怒号は収まらない。数人の男性従業員が仲介に入ってくれてなんとかその場は収まったが、女性従業員はこの出来事が心のトラウマとなり、「出勤するのが怖くなった」と明かした。

別店舗からの報告では、店長らが顧客から数時間に渡って叱責を受けたり、従業員が人格否定された上に辞職を求められたりするケースも。クレーム対応で訪れた顧客宅で、従業員が延々と怒号を浴びせられるケースなどもあったという。

流通・小売りなどの労働組合が加盟する「UAゼンセン」が組合員らに行った令和6年の調査(約3万3000人が回答)では、カスハラ被害に直面する労働現場の実態が明らかとなった。

迷惑行為を受けた経験を尋ねたところ、46.8%が直近2年以内に被害に「あった」と回答。このうち、最も印象に残る迷惑行為として最も多かったのは「暴言」(39.8%)で、次いで「威嚇・脅迫」(14.7%)-が続いた。

迷惑行為を受けた後の心身の状態としては、50.5%が「嫌な思いや不快感が続いた」とし、「同じようなことが起こりそうで怖かった」(8.0%)、「不安な気持ちが続いた」(7.0%)とする者もいた。

UAゼンセン埼玉県支部の楠本敏久支部長は「カスハラが従業員らに及ぼす影響は大きく、心身のバランスを崩して退職に追い込まれる者もいる」と説明。県のカスハラ防止条例が被害防止につながることを願う一方、「県は県民らに条例を周知し、事業者などへのサポート体制の充実にも努めてほしい」と訴えた。(三宅陽子)

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