シーズン開幕から間もない頃、阪神の吉田義男監督は左の強打者から思わぬ申し出を受けた。スタメンから外してくれ。来日3季目のランディ・バースである。調子が上がらずに参っていたらしい。昭和60年4月、雲行きが怪しかった。
▼監督は一蹴する。なにを言うんや。主軸を出したり引っ込めたりできるか、と。実は前季のオフ、球団はバース解雇を決めていた。監督人事がこじれ、8季ぶりに再登板した吉田さんが残留を主張したいきさつがある。快進撃は、そのとき約束されていたのかもしれない。
▼バース、掛布雅之、岡田彰布。甲子園で伝説の3連発が飛び出すのは、助っ人の申し出からわずか3日後だった(『牛若丸の履歴書』)。その年、阪神は球団史上初の日本一となる。選手の手で宙に舞う監督の英姿は虎党でなくともご記憶だろう。
