終章 きらん風月 一 (文・永井紗耶子)
良く晴れた空に、どこからともなく鶯(うぐいす)の声がする。春先に比べて歌が上手(うま)くなったものだと、定信(さだのぶ)は駕籠(かご)の中で目を閉じて一人、微笑(ほほえ)む。
定信のお忍び旅の一行は、掛川城を出立した。お忍びとは雖(いえど)も、それ相応の威容を保ち、駕籠には葵(あおい)の御紋もある。誰とは分からぬが、やんごとなき御一行であろうことは遠目にも知れ、道行く者たちは膝をついて頭(こうべ)を垂れた。
その駕籠はゆっくりと日坂(にっさか)宿へと向かって行く。陣屋の数軒先まで進んだところで、
「止めよ」
