女子の兵法 小池百合子

結論、結果を出すときだ

11日、ウクライナ東部マリウポリの市街地で行動する親露派武装勢力の装甲車両(ロイター)
11日、ウクライナ東部マリウポリの市街地で行動する親露派武装勢力の装甲車両(ロイター)

人類の歴史は、感染症と戦争の歴史ともいえる。

第一次世界大戦末期の1918年3月、米カンザス州フォートライリーの陸軍訓練基地での発症が確認されたスペイン風邪は、瞬く間にヨーロッパ各地、そして世界中に広がった。世界の人口の約3割が感染し、4500万人が亡くなったともされるパンデミック(世界的大流行)だ。

当時、欧米は報道規制でパンデミックの状況が報じられることはなかったが、中立国のスペインでは大きく報じられた。これが「スペイン風邪」といわれる所以(ゆえん)である。あれから100年以上が過ぎた今日、新型コロナウイルスの感染が十分におさまらない中で、ウクライナの人々は戦火で命の危機に襲われている。

米国のブリンケン国務長官は、ウクライナでの戦闘が長期化し、今年末まで続く可能性を欧州の同盟国に伝えたとされる。

2月20日、北京冬季五輪の閉会式で聖火が消されてからわずか4日後、ロシア軍によるウクライナ各地への攻撃が始まった。当初は、両国の圧倒的な軍事力の差や、2014年のクリミア併合までのロシアによる早業から、3月4日のパラリンピック開会式までの短期間に事態は終結してしまうのではないかとの予測もあった。この成功体験に基づくウクライナ侵攻とウクライナの反撃ぶりはプーチン大統領にとって、想定外だったようだ。北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大を阻止するためのウクライナ侵攻が、これまで中立国であったフィンランドやスウェーデンのNATO加盟を促したことも、想定外の事態だろう。

冷戦時代の米ソ代理戦争以来、ロシアが深く関わるシリア内戦も、2011年から10年以上の膠着(こうちゃく)状態が続いている。シリアのタルトゥース港はソ連時代からの海軍補給拠点で、現在も地中海におけるロシア軍の重要な駐留基地である。だからこそロシア軍は戦況次第で、「引いては、立て直し」を繰り返す、死守作戦を続けてきた。複雑な宗派や勢力の戦いも絡み、出口はいまだ見えない。

黒海沿岸の港湾都市へのロシアの攻撃も、艦隊の旗艦を失っても地政学的な戦略として執拗(しつよう)に進め続けるだろう。

今回のウクライナ危機は決して「対岸の火事」ではない。

資源高や穀物高などに波及していることで世界の経済見通しは不透明になっている。今回のような「現状変更」を国際社会が食い止められなければ、地球上のあらゆる地域が不安定化するリスクを抱えることになる。

日本を取り巻く環境は決して「波静か」とはいえない。

ここへきての円の独歩安も産業構造が変化したこともあり、ボディーブローのようにきいてくる。

日本固有の領土である北方領土を不法占拠するロシアは、択捉島や国後島での軍事演習などでわが国を牽制(けんせい)し、沖縄県の尖閣諸島の沖合では中国海警局の船などが日本領海への侵入を繰り返している。弾道ミサイル開発を進める北朝鮮の脅威もある。

中東や中央アジアなどの地政学的観点や、エネルギー・食料安全保障など、わが国が国家として、国民を守るためにやらねばならないことは山積している。それは首都・東京の守りに直結する。

先日、首都防衛の要で、頭号師団とも呼ばれる陸上自衛隊第1師団の創立60周年記念式典での祝辞で、防衛力、経済力、そして意志など、総力の結集が必要と強調したところだ。

孫子の兵法に「勝つべからざる者は守なり、勝つべき者は攻なり」との言葉がある。守りを基本に好機が来れば攻めに転じるという教えだ。

今こそ、日本は守るべきものが何かを仕分けし、必要な策を講じなければならない。

No Action Talk OnlyのNATOの時代は終わった。結論、結果を出すときだ。

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