台風接近などで大規模水害の恐れが高まり、首都圏の250万人以上が避難する事態に備えた「首都圏大規模水害広域避難計画モデル」を政府が初めて作成した。災害発生3日前から早期の避難行動を呼びかけ、鉄道が計画運休に入る前に約74万人を近隣自治体へ避難させることを目指す。東海地方や近畿地方などでの広域避難計画の策定にも応用する狙い。
早期避難が成否のカギ
3月に公表したモデルでは特別警報級の台風が接近し、東京都の東部を流れる荒川や江戸川が氾濫(はんらん)し、東京湾に最大規模の高潮が押し寄せると想定。浸水域となる葛飾、墨田など都内17区のうち、各区内の避難所へ約41万人、自ら確保した知人宅などへ約154万人がそれぞれ避難し、残る約74万人が自治体を越えて移動すると仮定した。
ネックとなるのは鉄道の計画運休だ。鉄道は長距離を大量輸送できるが、混乱を避けるため大雨になる前に運休する。広域避難の成否は、いかに早い段階から避難できるかにかかっている。
そこでモデルでは災害発生3日前には都と交通機関が共同対応を開始し、高齢者ら要支援者を運ぶバス輸送の準備と避難情報を発信する可能性を住民に周知。2日前には出勤抑制や学校休校などを求めるとともに自主避難を促し、バスと鉄道で集中輸送を行う。
発生1日前には最終的に広域避難情報を発信。9時間以上前には鉄道の計画運休が始まり、バス輸送を終え、道路使用を控える要請を出す。
モデルでは全体を俯瞰(ふかん)するタイムラインに加え、連携用、各機関用の詳細なタイムラインも作成する。首都圏では昨年12月に連携訓練を行ったが、「年1回程度は必要」との声も上がっている。
気象災害の激甚化で首都圏での大規模水害は現実的になりつつある。長野・千曲川が氾濫した令和元年東日本台風の接近時には首都圏で広域避難情報の発信がリミット間際まで検討された。
首都圏の広域避難体制構築に関わる片田敏孝東大特任教授(災害社会工学)は「関係機関の連携はやっと緒に就いたが、住民の避難行動に結び付く情報伝達をどう形作るか、これからが重要だ」と指摘した。
名古屋、大阪でも具体化進む見通し
都市部での大規模水害に備えた広域避難は、各地で別々に検討されている。政府が東京都東部の江東5区(江東、墨田、江戸川、足立、葛飾)での広域避難計画モデルを先行的に示したことで、同じ3大都市圏の名古屋、大阪でも計画策定の具体化が進む見通しだ。
愛知、岐阜、三重の県境付近を流れる木曽三川(木曽川、揖斐川、長良川)と名古屋市内の庄内川流域でつくる「東海ネーデルランド高潮・洪水地域協議会」は平成18年から検討が始まった。人口規模は約243万人で、江東5区の約260万人に匹敵する。
東海地方では昭和34年に5千人以上の死者・行方不明者を出した史上最大規模の「伊勢湾台風」が知られる。江東5区と同様、川の水面より低いゼロメートル地帯が広がり、伊勢湾の高潮被害も想定される。
大阪市では、淀川の氾濫と大阪湾の高潮を想定した人口規模約112万人の「大阪大規模都市水害対策検討会」が平成27年に設立。大阪府内では淀川と安威川流域の三島地域(大阪府吹田市など)で人口約156万人の連絡協議会もある。
広域避難
広域に被害が及ぶ災害発生に備え、在住する市区町村の外へ事前に避難すること。他の自治体の住民を受け入れるため、自治体間の事前調整が必要となる。平成27年の東日本豪雨の後、広域的な枠組みがないことが課題となり整備が進んだ。大規模地震などでライフラインが断絶した際、復旧まで他自治体へ2次避難することを指すこともある。





