梅雨前線の影響で、秋田県では16日も天気が崩れ、浸水した車の中から男性1人の遺体が見つかった。7月上旬に九州北部を襲った大雨では早朝に土砂崩れが発生、夜間や未明の避難の難しさが改めて浮き彫りになっている。配慮が必要な高齢者らの逃げ遅れをどう防げばよいか。平成30年7月の西日本豪雨で、多数の逃げ遅れが発生した地域では、住民らが中心となった「要配慮者マイ・タイムライン」や「地区防災計画」づくりが進み、住民主体で減災に取り組んでいる。
想定と一致するも…
西日本豪雨により、小田川などで堤防が決壊した岡山県倉敷市真備(まび)町地区。亡くなった51人のうちの45人が65歳以上だった。住民が「衝撃だった」と振り返るのは、洪水浸水想定区域と実際の浸水範囲がほぼ一致していたこと。危険性が分かっていたにも関わらず、避難行動につながっていなかった。
高齢の犠牲者が多かった理由とされるのは、独り暮らしが多かったことや、夜間の自力避難が困難だったことなど。倉敷市の伊東香織市長は「再び安心して暮らせるまちにするにはどうすればいいか、みんなで考えてきた。避難の仕方なども十分に考え、意識は格段に高まった」と話す。
取り組みの一つが、「要配慮者マイ・タイムライン」。住民一人一人の防災行動計画のことで、災害時に支援が必要な高齢者や障害者、乳幼児らの安全を守るため、時系列で行動内容を住民主体でまとめた。
真備町地区の介護事業所「ぶどうの家」は、利用者やその家族、福祉事業所の職員のほか、近隣住民や地域の民生委員も参加し、「どこに」「いつ」「誰と」「どうやって」避難するかを話し合ってタイムラインを作成。ぶどうの家の津田由起子代表は「地域で日頃からつながりをつくることが、避難の成否を握る」と話す。タイムラインづくりの推進に向け、国交省による動画作成にも協力した。
西日本豪雨以前は市内で1件もなかった「地区防災計画」を作る動きも増えている。倉敷市によると、策定済み7件のうち、4件は真備町地区の自主防災会などだ。新たに計画を策定中の地区もあり、市の担当者は「西日本豪雨を機に、防災について考える機運が高まっている」と話す。伊東市長は「他地区にも経験を伝え広め、防災力の強化につなげたい」とした。
機能しなかった「名簿」
災害時に支援が必要な人をどう支えるか。国は災害の教訓を踏まえて制度改正を重ねている。
平成23年の東日本大震災で障害者や高齢者らへの対応が不十分だったとして、25年に災害対策基本法を改正。要支援者の名簿作成を市町村に義務づけた。支えが必要な人を明確にするのが狙いだ。
だが5年前の西日本豪雨の際、倉敷市は支援が必要な人の名簿を作成済だったが有効に機能しなかった。そうした人をどう避難させるかという計画が十分検討されていなかったためだ。
国は令和3年に再び同法を改正。要支援者の個別避難計画の作成が市町村の努力義務となった。事前想定をもとに計画をつくることが被害の減少につながるという発想だ。
倉敷市では3年度、避難に際して特に支援が必要な人を絞り込み、約3千人(5年6月時点)の新しい名簿を作成。従来の台帳に記載されていたのは約3万7千人だったが、よりサポートが必要な人を明確にすることで、実効性を高めるのが狙いだという。
避難阻む「バイアス」
災害時、避難所に行くことを拒むなど、積極的に逃げないケースもある。一般に避難行動が遅れる理由について、関西国際大の村田昌彦教授(都市工学)は「正常性、楽観主義、同調性の3つのバイアスがかかっているのでは」とする。
正常性バイアスは、これまで被害を受けず安全であったことが「正常」な状態だと思い、危険を受け入れにくくなる現象。楽観主義バイアスは、異常な気象状況下でも自身の住む地域は大丈夫だと楽観的にとらえること。同調性バイアスは「まわりの人が避難しなければ大丈夫」と思い込む現象だ。
高齢者はこれに加えて情報入手手段が乏しいため、判断が遅れることがある。逃げようとしても物理的に動きにくいのも高齢者だ。
村田教授は、災害時には家族や周辺住民らの積極的な声かけで、逃げる方に同調性を切り替えさせたり、事前に地域の危険度を理解してもらったりすることが有効だと指摘。「心配する人がいることを伝えるのも効果的。『孫が悲しみますよ』といった声かけが背中を押すこともある」と話した。(和田基宏、前原彩希)
河田恵昭・関西大特別任命教授「まちづくり」のレベルで防災を
近く発生すると言われている南海トラフ巨大地震では、私の試算では関連死を含め100万人規模の犠牲者が出る可能性がある。一定の対策もされてはいるが、それでも社会の高齢化が進めば進むほど、対策は難しくなる。根本的な対応が必要だ。
自治体などでは被害に備え、事前の防災計画を作っているが、単に計画を作るだけでは意味がない。まちづくりのレベルでの対応が大切だ。日本ではそうした防災対策が遅れている。
西日本豪雨の際、岡山県倉敷市真備町地区では高齢者の死者は少なくなかった。災害時に自分だけで避難できないような高齢者を一人暮らしさせるのは良くない。被災地域で積極的に対策を進め、モデル地区としていくべきだろう。
今後も高齢化はさらに進み、災害時の高齢者避難は避けては通れない課題になる。個人や地域の自主防災組織で対処するという考え方もあるが、それだけでは限界がくる。今後は「もう危ないところには住まない」というレベルの対応が必要になってくる。







