ホロコースト(ユダヤ人大量虐殺)を繰り返してはいけない、と第二次世界大戦後の人類は反省した。なかんずくヨーロッパの研究者は社会の深奥に切り込み、示唆に富んだ理論と方法を導き出した。
例えば、ユダヤ人を選別してガス室に送っていたのは訓練を受けた能吏で、整備された輸送網が活用された。劣等人種を消す行為は優位な人種のさらなる幸福につながる、という冷酷な考えの下で殺戮(さつりく)が組織的に実行された。ヨーロッパで醸成された近代の排他的精神とドイツ的思想が結合して凄惨(せいさん)な結果がもたらされた、と生存者や加害者が多数の著作で論じてきた。
同じことは中国が進めているウイグル人ジェノサイド(民族大量虐殺)にも当てはまる、と本書は証明している。「辺境を支援する」という名目で移住した中国人(漢人)エリート層は、「発展」を邪魔する者を駆逐していると捉えるのだろう。津々浦々まで整備された交通網は「西部大開発」という美名の下でウイグル人のオアシスに到達し、連行されるウイグル人を強制収容所まで運んでいる。ウイグル人の家庭に中国人の「親戚」が入り込み、同化させようとしている。
否定し反省したはずの蛮行が21世紀の今日に進行しているのも中国の伝統的な思想が原因だ、とホロコースト研究の成果を援用できる。中国こそが天下の中心で、中国人は東夷・南蛮・北狄・西戎(とうい・なんばん・ほくてき・せいじゅう=中華以外の周辺諸民族)より優れた人種で、「野蛮な少数民族」は「文明的な中国人」に同化すべきで、抵抗する者は抹消するという華夷秩序(国際関係)の思想が背景にあることが本書から読み取れる。
本書はジェノサイドを告発する日本在住ウイグル人34人の「生の声」の結晶だ。危惧すべきは、顔認証等の日本が開発した科学技術の成果も中国的思想の暴走に悪用されていることだ。もし日本が中国の支配下に置かれたら、ジェノサイドは日本人にも適用されるに違いない、と読者は認識する必要があろう。(産経新聞出版・1760円)
評・楊海英(静岡大教授)




