MIT(米マサチューセッツ工科大)教授の著者は、現代の情報社会は新しい局面に入ったという。その中核をなすのが「ハイプ・マシン」だ。
ハイプ・マシンとは本来、誇大宣伝機械というような軽い意味の言葉だが、著者はSNSをはじめとしたネットワークサービス全体をハイプ・マシンと呼び、それが我々にとって欠くことのできない生活基盤として君臨し始めたがゆえに、社会問題の発生源にもなっていると指摘する。
ハイプ・マシンは、情報ネットワークを通じて接続されたスマートフォンなどの情報端末によって人々を結び付けた。その結果、単にコミュニケーションの手段が増えたにとどまらない社会的影響力を生んだ。大統領選挙に影響を及ぼすほどのデマを蔓延(まんえん)させ、過激思想を増長させ、思想的な立場の分断や林立を助長した。
意図的な悪用は別にして、この主原因は、ハイプ・マシンに搭載された人工知能技術がおススメ表示をしているうちに、個人の意見が次々と確証されてしまい、多様な意見の存在を覆い隠すことにある。
著者は分析をもとに、現代社会が抱えた産業構造、社会制度、人間の欲求が複合的に絡み合いながら暴走するハイプ・マシンを、いかに文明の発展や社会福祉の増進に向けて制御していくかの展望を立てていく。そこには、緻密な科学的考察がなされており、因果関係をあぶりだす無作為化比較対照試験や自然実験などの議論もなされている。
このあたりの議論は、予備知識がないと少し難しく感じるだろう。評者が運営する明治大科学コミュニケーション研究所のサイト「疑似科学を科学的に考える」(gijika.com)に、その科学的方法論についての解説があるので、参照されたい。
本書の議論の中核はハイプ・マシンであり、原著のタイトルにもまさに「ハイプ・マシン」が掲げられている。邦題から連想されるような社会心理学的視点からの人間行動の議論は少ない。むしろ本書を最後まで読み進むと、「人間はなぜこれほどまでにハイプ・マシンに従ってしまうのだろうか」という疑問も湧いてくる。(ダイヤモンド社・2420円)
評・石川幹人(明治大教授)




