札幌市から東に約150キロ。国内有数の畑作地帯で、日本の「食料基地」とも呼ばれる十勝平野の中央に位置する北海道音更(おとふけ)町を訪れると、一面に青々とした小麦畑が広がっていた。「輸入小麦の値上げをきっかけに、国産を大事にしようという機運が広まってくれれば」。町で小麦粉の販売などを手掛ける「山本忠信商店」専務の山本マサヒコさん(58)はそう話し、小麦畑を見つめた。
畑で育てられているのは、同社が普及に携わった新品種「みのりのちから」。令和2年、北海道の産地品種銘柄に登録されたばかりのパン・中華麺向けの小麦だ。平成20年、秋に種をまいて栽培する小麦として開発された「ゆめちから」を基に、さらに収穫量が望める品種に改良された。「試験栽培では『ゆめちから』より20%ほども収穫量が多かった。収穫量が多ければコストが下がり、値段を下げられれば食品会社にも消費者にも受け入れられやすくなる」(山本さん)
同社は今年度の収穫量を約1800トン、令和6年度にはその4倍超にあたる約8600トンと見込む。販路を確保すべく、大手製パン会社にもパンの試験製造を依頼。帯広市の製パン店「満寿屋(ますや)商店」では昨年6月、この品種を100%使った食パンの販売も始まった。
国内の小麦の自給率は近年、10%台で推移し、ほとんどを輸入に頼っている。日本人の主食の比重が、米からパンなどに移る一方、食生活の変化に生産体制が呼応していない、とも指摘される。
「栽培する農家が増え、国産小麦を使う食品会社も増えることに期待したい」。山本さんは「みのりのちから」が、小麦の自給率向上の契機となることを願っている。
令和2年度、国民に供給される食品の熱量(カロリー)を基に算出した日本の食料自給率は37%。平成5年度、30年度と並び、過去最低だった。食品の「輸入頼り」という長年の課題は、ロシアのウクライナ侵攻に端を発した食品の相次ぐ値上げで顕在化する。両国が世界の輸出量の3割を占める小麦は国際価格が急騰。原油価格の高騰、円安も重なり、カップ麺や冷凍食品、酒、菓子と家計への影響が拡大している。
帝国データバンクは今月、主要食品会社105社を対象にした調査で、値上げが当面、収まる気配はないとする見通しを示した。この傾向はさらに、長期化するとの見方もある。東京大学大学院農学生命科学研究科の鈴木宣弘教授(農業経済学)は、中国が世界で穀物を買い集めている現状があるとし、「ウクライナでの戦闘が収まっても、日本が優先的に食料を買い付けられるわけではない」と指摘する。
幸い、日本では現在、食料の供給が滞るまでには至っていない。一方で、食料自給率の問題は「一夜では解決できない」(鈴木教授)。高齢化に伴う農業従事者の減少、耕作放棄地の増加など、農業そのものが先細りする中、国と生産者、消費者が一体となった長期的な取り組みが必要となる。
鈴木教授は「学校給食に国産農作物を使う自治体を国が援助するなど、食品会社、加工会社が原材料を輸入から切り替え、国産品が流通しやすくなるよう誘導する制度づくりが必要だ」と主張する。「日本には生産を増やす力は十分にあると思う。安定した『出口』があれば、農業に従事する人を増やすことにもつながるのではないか」と話した。(橋本昌宗、吉沢智美)






