【ワシントン=黒瀬悦成】バイデン米大統領は15日、キューバでディアスカネル共産主義体制の失政や拙劣な新型コロナウイルス対策に抗議する大規模デモが起きている問題で「キューバは破綻国家であり、自国民を抑圧している」と指摘し、キューバ国民の救済に向け「多数の可能性を検討している」と表明した。バイデン政権がキューバ政策に関する具体的な方向性を提示するのは初めて。
バイデン氏は同日、ドイツのメルケル首相との会談後の共同記者会見で、「共産主義は世界中で失敗した制度であり、社会主義もあまり有効な代替制度とはいえない」と述べ、キューバの体制を批判した。
同氏はその上で、「キューバ政府を利することのない形でキューバ国民を救う方策を考えている」とし、国際機関などを通じた新型コロナのワクチン供給を検討していると語った。
バイデン政権はキューバ政策の見直しを進めており、オバマ元政権の和解政策に回帰するのか、オバマ政権に実施された渡航・送金規制の緩和を撤回するなど強硬路線を打ち出したトランプ前政権を継承するのかが注目されていた。
バイデン氏はこの日の記者会見で、送金規制を再緩和する可能性について「キューバの体制が送金されたカネを差し押さえる公算が極めて大きい」とし、現時点で再緩和する考えはないことを明らかにした。
バイデン氏は12日、キューバ情勢について、「普遍的権利を行使するキューバの人々を断固として支持する。キューバ政府に対し、人々の声の封殺を図る暴力を控えるよう求める」と表明していた。
国務省でも、トランプ前政権下で実施されたキューバのテロ支援国家指定を撤回する動きは出ておらず、バイデン政権としては当面の間、キューバに強硬姿勢で対処する構えだ。
バイデン政権がキューバに対して強硬な立場を打ち出した背景には、来年の中間選挙と2024年の大統領選をにらみ、キューバ政府の圧政から逃れてきたキューバ系住民が多く住む南部フロリダ州での巻き返しを図りたい思惑もある。
昨年の大統領選でフロリダ州を制したトランプ前大統領は、強硬な対キューバ政策を打ち出し、キューバ系住民の支持を獲得した。フロリダ州は大統領選の行方に大きく影響する激戦州であるだけに、バイデン政権は強硬なキューバ政策により同州で支持固めを図る一方、「民主党は社会主義者だ」とする共和党陣営の批判を封じたい考えだ。