『「脱炭素」は噓だらけ』の著者、杉山大志(たいし)氏は気候変動問題の第一人者であり、政府の専門家として地球温暖化についての国際学術機関(IPCC=気候変動に関する政府間パネル)においてこの問題に深く関わってきた。本書は菅義偉政権の脱炭素政策について、かじ取りを誤ると日本経済を破壊し、中国依存度を加速度的に高めると警鐘を鳴らしている。
著者は長年の知見と経験から、NHKスペシャル「2030未来への分岐点」の根拠のない未来予測や「温暖化のせいで災害が激甚化した」という印象操作、気候危機をあおる政府の環境白書、ソーシャルメディアの温暖化懐疑論に対する検閲と言論統制などの複層にわたる巧みな情報操作を冷徹に分析している。また脱炭素を商機と捉え、国の補助金に群がる企業、脱炭素で儲(もう)けようとたくらむ投資家たちに、グリーンバブルはいつか崩壊すると警告する。
着目すべきは、舞台裏に潜む中国の大きな野望と、再生可能エネルギーの高いコストが日本経済を破壊する可能性、そして環境NGOの理想とかけ離れた過激な政治運動である。
菅首相は4月の気候サミットで、2030年度CO2(二酸化炭素)削減目標を13年度比で46%減と既存目標の26%減から大幅に引き上げた。だがCO2は地球全体の問題、主には中国の問題で、彼らが協力をしなければ解決できない。中国の25年のCO2排出量は、経済成長が年率5%とすると、20年比で10%増える計算になるという。
脱炭素を推進するため、太陽光や風力など再エネの導入が進むが、石炭火力や原子力のような安定的で安価な電力は得られない。再エネで発電した電気を買い取るための賦課金を負担するのはほかならぬ国民である。
脱炭素の勝者はだれか? 中国共産党である。脱炭素により新疆(しんきょう)ウイグル自治区で生産される太陽光パネルが普及し、EV車の中国製バッテリー依存が進む。日本が石炭火力から撤退しても、中国は世界に火力発電所を建設し続ける。脱炭素に酔いしれる政治家たちを手玉に取った中国による日の丸製造業転覆の謀略から、日本国民は目を覚ますのか。ぜひ手に取って読んでいただきたい一冊である。(産経新聞出版・1540円)
評・加藤康子(産業遺産国民会議専務理事)




