中学野球において「文武両道」を掲げるチームは数あれども、ここまで徹底しているのは珍しい。昨年8月、硬式野球中学日本一を決める大会で優勝を飾った「湘南クラブ」(藤沢市)。週2日をOBが講師を務める塾での授業にあてる。総勢約150人の大所帯には、「当たり前のことを当たり前にやる」という精神が浸透していた。(河野光汰)
◆大手学習塾顔負け
「今日は前回の続きから。この問題、分かるやついるか?」
1月30日午後7時。藤沢市石川の練習グラウンドに隣接した事務所では、ホワイトボードにマーカーで文字を書く音が響いていた。数学の授業。丸刈りの中学生たちが机に教科書を広げ、講師の話に熱心に耳を傾ける。
みな体つきはがっしりとしていて、よく見ると「SHONAN」とプリントされたジャージーを身にまとっている。「湘南クラブ」のいつもの光景だ。
週2日、午後6時ごろから2時間ほど、主にクラブOBの現役大学生を講師役にした授業がある。学年別で、学力に応じてクラス分けされており、科目は国語、英語、数学、理科。クラス分けのための模試もあり、大手の学習塾も顔負けのカリキュラムだ。
湘南高校(藤沢市)や慶応高校(横浜市港北区)など、県内屈指の進学校に進んだOBも数多い。
「勉強は中学生として当たり前にしなければいけないこと。野球以前の問題です」。昨年、15歳以下日本代表「侍ジャパン」のコーチも務めた田代栄次監督(39)はそう言い切る。
◆人間としても成長
チームは田代監督の父・榮夫(さこお)さん(75)が平成元年、「野球も教える学習塾」として立ち上げた。言葉通り、当時はむしろ勉強が主だったが、野球大会でも結果を残すにつれて、「文武両道のクラブがある」と地域にその名が知れ渡った。
11年に監督に就任した田代監督の指導方針には、「当たり前の徹底」が随所にみられる。練習中のグラウンド内での移動は、全力疾走。ミーティング中は監督らの目をみて話を聞き、大きな声で「ありがとうございました!」とあいさつする。授業を行う事務所にある靴の収納棚には、選手たちの靴が整然と並べられている。
常に細かいところにまで神経をつかい、気を張っていなければならない状況は楽ではない。だが、西川拓真主将(15)は「ここは、人間としても大きく成長できる場所です」と胸を張る。
◆2度目の全国制覇
昨年8月、東京ドームで行われた全国大会「ジャイアンツカップ」では、シーソーゲームとなった1回戦を3-2で制すと、決勝を含む3試合は4点差以上の点差をつけて圧倒。チームとして2回目の全国制覇を成し遂げた。
選手の特徴によって戦い方のスタイルは柔軟に変える。中学野球は7回制のため、打順が多く回って来る1、2、3番に打力の高い選手を置くことは、セオリー通り。今年は、長打力が求められる4番打者をあえて足が速い選手にし、出塁できる可能性を高めた。
切れ目のない打線を目指してのことだ。「勝てる可能性がいちばん高い野球を考えている」(田代監督)という。
連覇が目標。田代監督は「努力することの意義深さを学んでほしい。そして、社会で必要とされる人間になってほしい」。視線の先にいる選手たちは、その思いを受け止め、今日もグラウンドと机で努力を続けている。
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■湘南クラブ 日本少年野球連盟(ボーイズリーグ)所属の中学硬式野球クラブ。藤沢市を中心に約150人が在籍。専用グラウンドは寒川町の河川敷にある。Aチームが「湘南ボーイズ」、Bチームが「湘南茅ケ崎ボーイズ」として活動。多くの選手に出場機会が与えられる。OBに高橋周平(23)、小笠原慎之介(19)=いずれも現在中日ドラゴンズ所属=ら。「野球と勉強の両立を目指す」との理念を掲げる。



