番頭の時代(10)

「ズケズケ直言」の真意は永続的な成長へ「器作り」 グリー(下)

グリーの秋山仁取締役

入社してまもない平成23年12月、秋山仁(現グリー取締役)は米国にいた幹部に1本の電話を入れた。

「今度日本に帰ってこられるとき、うちのチームのメンバーと食事してもらえませんか」

相手はグリーCFO(最高財務責任者)で、米子会社CEO(最高経営責任者)も兼ねていた青柳直樹(35)だ。

当時秋山は投資チームの一マネジャーに過ぎない。しかし部下や同僚から「最近、幹部と話す機会がないんです」とこぼされ、いても立ってもいられなくなった。

創業してわずか数年で、従業員1千人規模まで急成長したグリー。まだ200人くらいのころは、社内で顔と名前が一致し、気軽に声をかけられる雰囲気があった。だが、人数が多くなると幹部が「偉い存在、遠い存在」になっていた。

秋山は、現場と経営陣とのコミュニケーションが不足すれば、正確な経営判断ができなくなることを経験上知っていた。まもなく青柳と現場の会食は実現。秋山の新風ともいえる働きかけで、その後ほかの幹部も現場とのコミュニケーションを心がけるようになっていく。

自分の経験に照らし、グリーに不足し改善したほうがいいと思ったことは、ズバズバ直言し実行するのが秋山の真骨頂。創業者で会長兼社長の田中良和は「常に社員のことを思いやり、会社をより良くしようという姿勢に助けられる」と全幅の信頼を寄せる。

◇ ◇ ◇

「あまりの急成長に『器』や、考え方が追いついていない」。入社後すぐに秋山はこう感じた。三菱商事、メリルリンチ日本証券で場数を踏んできた秋山から見れば「非常識」なところが多々見受けられた。

例えば連絡の取り方。IT企業ならではだが、社員同士はネットのチャットを頻繁に使う。「時には電話をかけたり直接会ったりして言葉を交わすほうが、話が早いときがある」。嫌われ役を承知で同僚や部下にこんなアドバイスをして回った。

企業としての投資行動もそうだ。秋山の常識では、企業が大きな投資を検討するときには、「そもそも銀行から借金をしていいのか」から考える。ここ1、2年で使える金額を絞り込み、さらにその中からどれくらいのお金を使っていいか。通常、こうした手順を精緻に踏む。だが、グリーには、そうした「習慣」はまったくなかった。

「どんぶり勘定を改めたい」。こんな思いから、パナソニックの財務責任者を務め、「金庫番」とまで呼ばれた水野省三(59)を招聘(しょうへい)。水野は今、財務担当の執行役員として、グリーになかった部門別の採算管理の導入といった改革を着々と進めている。

◇ ◇ ◇

グリーは、いま逆境の最中にある。2月4日に発表した平成26年7~12月期決算は、半期として上場後初の最終赤字に転落した。アプリをダウンロードして楽しむスマートフォン向けゲームでヒット作を打ち出せずにいるためだ。

かつて田中が秋山にこう話したことがある。「60歳や70歳になったとき、自分の作った会社が競合他社に比べて『残念な状態』になっていてほしくない」。秋山流に解釈すれば、「商品のまぐれ当たりに左右されず、永続的に成長できる会社になる」ということだ。

ヒット作はただ待っているだけでは生まれない。人事、法務といったバックオフィスの下支えがあるからこそ健全な成長が図れ、そこから果実が生み出される。間接部門トップの秋山の胸にはこんな思いが詰まっている。(完、敬称略)

「ルール」をつくる側に回れ

ベンチャー企業の成長過程で、2つのルール作りが必要となる。ひとつはビジネスのルールをつくること。もうひとつは企業運営のルールをつくることだ。

成長企業の「BANTOU」は、ルールを守る側ではなく作る側に立たなければならない。状況に応じて、時には先手を打って事業を継続していくためのルールを作っていくのだ。秋山氏のようにルール作り力を持った「BANTOU」の存在が、企業の成長を大きく左右する。(ビズグロー代表 杉村知哉)http://www.biz-grooow.com/

この連載は田村龍彦、宇野貴文、田端素央、高橋寛次、山口暢彦が担当しました。

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