上智大4年の小林順子さんはその2日後、米シアトル大への交換留学に向かう予定だった。ジャーナリストを志す順子さんの前途は洋々たる可能性に満ちあふれていた。
だが平成8年9月9日、東京都葛飾区柴又の自宅が全焼し、焼け跡から順子さんの遺体が見つかった。手足を縛られ、首を刺されていた。
どれだけ無念だったろう。想像するだけで胸が痛い。
あれから30年がたった。
犯人は見つからず、事件は未解決のままだ。
現場の自宅跡地には事件の風化を防ぐために建てられた「順子地蔵」があり、手を合わせた父、賢二さんは「30年たった今も思いは変わらない。娘の無念を晴らすため、解決に向けた活動を続ける」と訴えた。
賢二さんは殺人事件被害者遺族でつくる「宙(そら)の会」会長を務めており、公訴時効撤廃の法改正に尽力した。
懸命の捜査は続いている。
警視庁は今年、事件直前に付近で目撃された黄土色のコートを着た不審な男の3D画像を新たに公開し、情報提供を求めている。事件現場で検出されていた犯人のものとみられるA型の血液のDNA型情報の分析にも期待がかかる。犯人の逮捕を、あきらめていない。
警視庁管内では世田谷区の宮沢みきおさん一家4人が殺害された事件や、八王子市のスーパーでパート従業員やアルバイトの女子高校生ら3人が射殺された事件などが未解決である。
重大事件の未解決は、体感治安の悪化に直結する。なにより遺族や関係者の苦しみや怒りの持って行き場がない。着実な捜査を支えるには、遺族らの悔しさに、わがこととして思いを致し、事件の風化を決して許さないことが肝要である。
昨年は11年に名古屋市の主婦が自宅で刺殺された事件で、26年の歳月を経て容疑者の逮捕に至った。一昨年には、兵庫県加古川市で小学2年の女児が自宅前で刺殺された事件の容疑者を17年ぶりに逮捕した。いずれも粘り強い地道な捜査が事件を解決に導いた好例である。必ず突破口はある。そう信じたい。
順子さんの父、賢二さんは「誰が何のために殺したのか、答えを教えてほしい」と話している。つらくても、それが遺族の心情である。




