ヨーロッパが米国AI依存から抜け出す道筋とは? トランプ政権による人材離れが追い風に

大陸がいますぐトップクラスのAIモデルをつくれると考えるのはさすがに無理があるが、ひとつだけ強力な追い風がある。ドナルド・トランプだ。

2026年6月上旬、わたしはパリで開催された巨大テックカンファレンス「Vivatech」に足を運んだ。会場を支配していたのは、ひとつの恐怖だった──このままでは、米国の価値観で訓練された米国製人工知能(AI)を使い続けざるを得ず、そこから抜け出せなくなるのではないか、というものだ。

米中がAI開発競争にしのぎを削るなか、自国のエンジニアリング人材はどこにも引けを取らないと自負するフランスとドイツは、蚊帳の外に置かれていると感じている。両国は発言権を求めるだけでなく、状況を打開する計“を次々と打ち出している。もし「主権(sovereignty)」という言葉が出るたびに一杯あおるゲームがあったなら、3時間も経たずに酔いつぶれていただろう。

テック業界を数十年にわたって取材してきたなかで、わたしは各国がシリコンバレーの模倣を図る様子を幾度となく記事にしてきた。個々の成功例こそ数多くあるものの、グーグルやOpenAI、Anthropicのような企業を生み出したエコシステムとマインドセットに比肩する国や市場は、いまだかつて現れていない。

投資家が米国企業に湯水のごとく資金を注ぎ込む一方、ヨーロッパ勢が手にするのは、相対的にははした金にすぎない。6月中旬、何度も耳にした統計によれば、Anthropicが最近実施した650億ドル(約10兆5,000億円)の資金調達額は、25年にヨーロッパと英国のAIスタートアップに投資された総額を上回るという。EUが公表した実際のデータも、この見方を裏づけているようだ。

それでもなお、Vivatechでの主権をめぐる議論には、どこか希望が満ちていた。楽観派は、大型の新規資金調達や協業の動き、そして主要な大規模言語モデル(LLM)ほどリソースを食わないかもしれない次世代技術を根拠に挙げる。

さらに数人は、ここ数十年でヨーロッパのテック業界にとって最大の追い風になりかねない「ワイルドカード」として、ドナルド・トランプの名を挙げた。

ムーンショットへの転向

Vivatechの会期は、フランス・エヴィアン=レ=バンで開かれたG7サミットと重なっていた。フランスのエマニュエル・マクロン大統領はここで、AI企業幹部らに訴えた。米国が自国第一主義的なAI路線を続けるなら、フランスは独自路線を歩む、と。

トロントを拠点とするCohereのCEO、エイダン・ゴメスも、エヴィアンに集まった聴衆に危機感を伝えようとしたひとりだ。「民主主義陣営が(AI開発で)2番手の座を確実に占める必要がありますが、いまはそうなっていません」と、ゴメスはVivatechでわたしに語った。「G7も、多様なAIプロバイダーのサプライチェーンが必要だと理解していると思います」

ヨーロッパが世界で2番目に優れたAIをつくれると考えるのは、ほとんど妄想の域に近い。20カ国以上が緊密に連携し、規制でイノベーションの芽を摘みたがる大陸特有の性向を克服し、かつてない規模の投資を呼び込まなければならない。何より、ヨーロッパはリスク回避志向から、ムーンショット(実現が困難とされる目標に挑む)志向へと頭を切り替える必要がある。

とはいえ、マクロンはそれなりの成果を上げてもいる。彼が主導する「Choose France」構想では、AIインフラへの投資として1,000億ユーロ超(約19兆円)の表明を取りつけており、その中核をなすのが、ソフトバンクによるフランスでの大規模データセンター建設という750億ユーロ(約14兆円)の投資表明だ──もちろん、承認が下りればの話だが。

協業に関しては、Cohereが多国間にまたがるパートナーシップの連鎖を編み上げようとしていると、ゴメスはわたしに語った。手始めは、ドイツのAI企業Aleph Alphaとの提携だ。

狙いは、「主権優先」のアプローチの下、エンジニアリングとインフラの両面でリソースをもち寄ることにある。「数週間前には、スペイン国王と共に、スペイン最大のテック企業であるIndraとのMOU(覚書)に署名しました」と彼は語る。

AI研究の先駆者で、25年メタのチーフAIサイエンティストを退いたヤン・ルカンは、政府と民間企業が力を合わせて最先端のフロンティア基盤モデルを構築する大がかりな取り組み「Project Tapestry」を推し進めている。

「世界中の政府はみな、AIの主権を求めています」とルカンは語る。「それを実現する唯一の方法は、オープンで自由な基盤モデルが存在し、その上で誰もが、自らの言語や文化、価値観、政治的な傾向に合わせた専用のアシスタントをつくれるようにすることだと考えています」

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