赤字の続く地方鉄道で、自治体が設備を保有して維持し、事業者は運営に専念する「上下分離方式」の導入に向けた議論が加速している。事業者の設備維持の負担が減る一方で自治体の負担は増える。ただ、少子高齢化や過疎化、自動車の普及による利用者減少で、事業者の自助努力は「限界」と訴える声が多い。
維持できない
JR北海道は4月15日、1キロ当たりの1日の平均利用者数(輸送密度)が200人以上2000人未満で、「自社単独で維持が困難」な赤字8路線(黄線区)について、上下分離方式を沿線自治体に提案すると発表した。対象は900キロ超。同社の総営業距離の4割に当たる前例のない規模だ。
黄線区の2024年度の収支は147億円の赤字。綿貫泰之社長は「利用促進を進めてきたが、収支は依然厳しい」と理解を求めた。JR北では除雪・駅業務の自治体移管、自治体への資産譲渡による固定資産税軽減なども提案している。
負担増となる自治体の警戒感は強い。北海道は市町村の自治体運営も収支が厳しく、鈴木直道知事は「上下分離ありきではなく、沿線地域や関係者と目線を合わせ、経営自立に向け幅広い方策を議論してほしい」と牽制(けんせい)した。
失われた10年
「黄線区」は10年前の16年に発表されていた。ただ、この時は、輸送密度200人未満の「赤線区」5線区も同時に示された。廃線やバス運行への切り替えが既定路線だったものの、自治体との調整は難航。今年3月末、留萌線深川―石狩沼田間(14・4キロ)の営業運転終了を経てようやく完了した。
名古屋大学大学院の加藤博和教授(公共交通政策)は「廃線が早く進んでいれば、黄線区の抜本的な見直しにも早く着手できたはず」と指摘する。
国はJR北の黄線区について27年3月までに抜本的改善策を示すよう求め、JR北では9月にも具体案の中間取りまとめを行うスケジュールで進める。
ただ、現時点で道と市町村の負担割合や、運営組織の設置といった具体案は示されていない。「JRの考えの詳細が分からず判断に至っていない」(名寄市の担当者)と、自治体側には当惑も大きい。黄線区の沿線自治体は計51にのぼる。加藤氏は「議論は慎重であるべきだが、スピード感を持ってやらなくてはならない」と話した。
31年ぶりの黒字も
上下分離方式は近年採用が相次ぐ。赤字を解消できないケースがある一方で、一定の成果も出ている。24年度に採用した近江鉄道(滋賀県彦根市)の鉄道事業は、31年ぶりに営業黒字に転換。25年度も2期連続で黒字となる見込みだ。保守コストが自治体側持ちとなり、浮いた経費を利便性向上に充て、収益を拡大した。
和歌山電鉄(和歌山市)の貴志川線では、28年4月をめどに上下分離方式に完全移行することで沿線自治体と合意した。経営難から16年度からの10年間は、鉄道施設の修繕など必要になったときに公費で支援する「みなし上下分離方式」を採用。しかし新型コロナウイルス禍や物価高の影響が重なり「全国の地域交通と同じように厳しい状況」(小嶋光信・和歌山電鉄社長)だった。完全移行により黒字転換を見込んでいる。
国土交通省によると、上下分離方式は全国で28の鉄道事業者が採用。主に利用者減少で経営が悪化したローカル線だ。海外では欧州で一般的な方式となっている。
加藤氏は「沿線の人口を減らさないのは本来行政の仕事。『下』を持つことで、自治体も鉄道を活かした地域の魅力向上に主体的役割を果たせる」と話している。





