「結婚はいつの間にか、『不自由』や『混乱や喧噪』の代名詞となってしまい、ますます多くの人が、結婚に対して恐怖を抱くようになり、『恐婚』という奇異な社会現象を生み出した」。中国のネットで発表された文章の一節だ。
伝統的に四世同堂(4世代が一緒に暮らす)が理想の家庭であり、結婚せず子孫を残さないのは不孝とされた中国で、若者の結婚離れが進み、「恐婚」すなわち結婚恐怖症という言葉まで登場、政府はあの手この手で若者に結婚を呼び掛けるなど、結婚をめぐる議論がこのところ活発化している。
きっかけは今年2月、民政省が発表した統計で、2024年の結婚登記件数は610万6000組と、前年に比べて20・5%も減少し、1979年以降で最低に落ち込んだことだった。中国メディアによれば、結婚登記件数のピークは2013年の1347万組だったが、12年間で半減した。
結婚の減少は適齢期の人口減などの要因もある。中国の人口のうち、「80後」と呼ばれる1980年代生まれは2億1500万人なのに対し、結婚適齢期の90年代生まれの「90後」は1億7800万人、2000年代生まれの「00後」は1億5500万人と減少している。さらには20~40歳では男性が女性よりも1752万人も多い「男余り」という現実もある。
だが、人口統計の数字だけが非婚化の理由ではなく、「経済の圧力と価値観の変化」という「二つの大きな山」も理由だとネットでは多くの文章が指摘している。
前者を象徴するフレーズとして「六つの財布を空にして結婚しても、大病を患えば貧乏に逆戻り、誰がそんな賭けをするか?」という言葉がネットで共鳴を呼んだという。六つの財布とは、カップルの両親とそれぞれの祖父母、計六つの財布であり、それだけの資金が結婚に要するのだという。
「結婚前に破産する」
中国ではかつて「自転車、腕時計、ミシン」が結婚の必需品とされたが、今日では「住宅、結納金、育児資金」の三つに代わったという。住宅価格の高騰は言うまでもなく、新郎が支払う結納金も中国では80%近くで行われており、沿海部では平均で20万元(約410万円)を超える地区もあり「結婚する前に先に破産する」とまで言われている。
子育てにかかるコストも高い。各国で18歳まで子育てをするのに必要なコストが一人当たりGDP(国内総生産)の何倍かを示す指標で、1位は韓国の7・79倍、2位が中国の6・9倍、日本は4・26倍との統計がある。こうした様々な経済的負担により、多くの若者が「結婚のために散財するより、自分の生活の質を高めるために使った方がよい」と結婚に踏み切れないのだ。
価値観の変化もある。家や子孫の存続よりも個人の幸福が重視され、特に女性の経済的な自立度が高まると、生きていくために結婚する必然性は弱まり、結婚相手に対する要求も高くなり、「理想の対象に出会えなければ、無理に結婚する必要がない」と考えるようになった。
中国政府は人口減少が経済の低迷など国力の衰退を招くとして、結婚年齢の引き下げ(男性は22歳、女性は20歳をそれぞれ18歳に)を提案、さらに結婚や恋愛、出産、育児などへの肯定的な見方を養う「愛の教育」を大学で実施するよう求めていると、海外メディアは伝えているが、効果のほどは未知数だ。
中国に住む友人の女性に意見を聞いてみた。「上海など自分の周りでも結婚しない女性が増えている」として「親元を離れ、中には海外で生活する人も増え、親の説得に耳を貸さなくなっている。また、人生を楽しみたいという考えが広がり、結婚、子育てのために生活の質を下げたくない若者が増えている」という。「だがこれは社会の変化の結果で、決して悪いことではない」と語った。
「人生の目的は結婚することではなく、幸福になることだ」。ネット上のこの言葉が中国の価値観の変化を表している。(作家、チャイナウオッチャー)
(月刊「正論」5月号から)






