秋篠若宮殿下(悠仁親王殿下)が筑波大学生命環境学群生物学類に合格あそばされたとの報道に接し、心からお祝い申し上げたい。
若宮殿下は幼い頃から昆虫に関心をお持ちになり、研究を続けていらっしゃることはよく知られる。宮内庁によると、筑波大学には生物を中心とした分野を専門的に学べる環境が整っていて、昆虫に関する研究室があり、実験や実習が豊富、また周辺に豊かな自然環境があることなどの特色に惹かれて、殿下御自ら受験をお決めになったとのことである。
しかし、不確かな情報やいわれなき誹謗中傷が拡散し、若宮殿下の御進学をいろいろと批判する風潮もある。本稿では、殿下の御進学を寿ぎ、殿下へのいわれなき批判に対して批評したいと思う。
歩み始めた学者への道
お父様の秋篠宮皇嗣殿下は、博士号を取得した最初の皇族で、学習院大学ご卒業後はオックスフォード大学大学院動物学科にご留学、ご帰国後は国立総合研究大学院大学で論文博士(理学)の学位を取得なさった。これまでにナマズやニワトリなどに関する論文や著書を多数発表していらっしゃる。そして若宮殿下のおじい様の上皇陛下と、ひいおじい様の昭和天皇もいずれも生物学者で、若宮殿下が幼少期から生物に関心をお寄せになったのは、自然なことであろう。
筆者の私も二人の子供の親として、子供が色々なことに興味を持てるように、そして、物事を知り探求することの楽しさを子供に伝えられるように、日々悩みながら我が子と接しているが、それは簡単なことではない。
若宮殿下が幼少期から一貫して生物と親しみ、そしてその分野で学者としての本格的なキャリアを歩みはじめたことに敬意を表しつつ、お子様に学ぶ機会を与え、学ぶことの楽しさをお伝えになったお父様に敬意を表したい。ご多忙なご公務の合間に、丁寧にお子様と接していらっしゃったことが実を結んだことと思う。
また、お母様の紀子殿下は教育熱心で知られ、皇族としてのご公務をこなしながら、三人のお子様をお育てになるのには大変なご苦労があったろう。それでも紀子殿下は学校の行事を大切になさり、清掃やPTAの活動にも積極的に参加なさり、保護者との関係も大切にしていらっしゃったという。筑波大学への御進学は、日々近くで若宮殿下をお支えになったお母様のお力によるところが大きかったのではないだろうか。
打ち込める学問に出会うことができないまま社会人になる人が多いなか、高校生にして熱心に打ち込める学問があることは素晴らしいことである。若宮殿下が大学にお進みになり、本格的なご研究をなさることで、単に生物学の知識を得るだけでなく、論理的思考力や物事を探求する力、そして真理を見つめる力を養うことになるだろう。それは、将来必ず活かされるに違いない。若宮殿下の大学時代が実りあるものとなることを切に願い、この度の御進学にお祝い申し上げたい。
「皇族特権」に根拠はあるか?
さて、若宮殿下の御進学の報道で、祝意を述べる人がいる一方で、批判を口にする人も一定数いる。それらの批判が正当なものであればまだしも、いわれのない批判ばかりであることに私は危機感を覚えている。代表的な批判について検討していきたい。その中心は「皇族だから特別扱いを受けている」という類のものである。その他の批判を含め単なる憶測に基づくもので正当な意見とは言えない。
先ず、筑波大学合格に必要な学力が足りていないのではないかという批判がある。これは令和六年の九月に週刊誌『女性自身』が、教諭が質問しても答えられず硬直してしまったという趣旨の伝聞を伝えたほか、それ以前から度々「成績不振」「赤点」といった伝聞による憶測の記事が書かれてきた。
しかし、学校は殿下の成績を公表していないうえ、学内でも成績順を張り出すなど、個人の成績の優劣を表示していないという。しかも筑波大付属には「赤点」という制度もない。教諭が質問しても答えられないという状況の詳細は不明だが、たとえそれが本当だとしても、優秀な生徒が不意に質問されて硬直してしまうようなこともあるだろう。
そもそも、若宮殿下が在籍なさる筑波大学付属高等学校は、全国でも有数の進学校で、授業の内容も高度であることが知られる。そのレベルの高い授業についていける時点で、一定の学力があると見るのは当然のことである。また「赤点」記事に対して週刊誌『フライデー』は、殿下の同級生の「とくに成績が悪いとか、そんな噂は聞きませんよ」というコメントを配信している。筑波大に見合わない学力という指摘は根拠に欠ける不当な中傷といわなければならない。
次に、一般入試ではなく推薦枠だったことに対して「不公平」「忖度があったはず」といった不満の声がある。若宮殿下は、公募制の学校推薦型選抜の入試で合格なさった。確かに一般入試と異なる選抜は、基準が不明瞭であるため、皇族だから忖度が働いたのではないかと考える余地はあろう。
しかし、明確な不正の根拠なくそれを述べることは、場合によっては大学に対する偽計業務妨害及び名誉毀損を構成し得るのではないか。無論、若宮殿下に対する名誉毀損にも該当しよう。そもそも筑波大学は国立大学としては珍しく、推薦入試をはじめとする「特別選抜」による入学者が三割を超えている。そのため、同大学では推薦は少数枠ではなく、「一般選抜」と同様に、大勢の志願者が利用する受験方法であるといえる。
筑波大学がいち早く入試の多様性を模索してきたのは、学力だけではなく、それ以外の何かを重視してきたからに他ならない。同大学の加藤光保副学長は朝日新聞のインタビューに「開学時から学際的な学びや一人ひとりの個性を重視しており、多様な学生に来てほしいという思いが強くあります」と答えている。この言葉から、学びへの姿勢が問われる推薦枠は、一般入試と比べて選ぶ視点が異なるのであり、決して推薦が一般より「楽」ということはないことが分かる。
そして、望ましい学生を入学させるために制度設計を行うことは大学の自由であり、またそうした制度を使って受験したいと思うのも受験生の自由である。推薦枠を用いたこと自体を批判するのは、時代の流れを理解しない者の浅はかな論というほかない。また、皇族とて納税義務を負う同じ日本人であり、国立大学が用意する受験方式を選択するのに何ら問題はない。これを不可というのは皇族に対する不当な差別である。
また、推薦枠の基準が不明確だとして、皇族に忖度したのではないかとの意見があるが、そもそも推薦は、一般受験のような明確な「点数」に基づいたものではないため、不明確なのは当然である。まして、若宮殿下は、十分な研究実績と研究意欲があり、ボランティア活動(ご公務)の実績もあるため、推薦枠で合格なさるのに何ら不思議はなく、またそれを不当であると断定する合理的根拠は誰も示していない。
学習院は皇族の学校ではない
学習院に行くべきという論調も多い。しかし、「学習院」は華族のためにつくられた学校であって、皇族のための学校ではなかった。学習院大学卒の天皇は、現在の天皇陛下お一人のみである。
確かに戦前から戦後を通じて多くの皇族方が学習院に在学なさったが、かつては皇族が学ぶにふさわしい環境が整っていた。しかし、現在の学習院はそのような環境にないと私は思う。学習院を選ばなかった皇族を批判するのではなく、皇族に選ばれなくなった学習院にこそ問題があると言うべきではないか。学習院はなぜ皇族に選ばれなくなったのか、その理由を分析し、再生を目指すべきと思う。
若宮殿下は将来天皇におなりあそばすお立場でいらっしゃるため、世間の関心も高く、議論も過熱しやすい。だが、週刊誌の記事とSNSの書き込みには自制を求めたい。まだ社会に出ていない高校生に対して、これだけの批判を浴びせる社会は異常である。
SNSが発達した時代では、ごく少数の人の意見が、さも大多数の人の意見だと勘違いされることもある。若宮殿下の進学先が東京大学だとの憶測に基づき、それに反対するオンライン署名が立ち上がったが、それに署名したのは僅か一万数千人である。人口の一万分の一程度の「少人数」が署名しただけで、国民の大多数の意見であるはずもない。どんな正当なことをしていても、必ず一部の人は批判をするものである。にも拘わらず、多くのメディアがこの署名を取り上げて世論であるかのように伝えた。皇室を敬愛する人々には、ぜひこのような雑音にとらわれず、冷静に見つめていただきたいと願う。
(作家)
(月刊「正論」2月号より)
たけだ・つねやす
昭和五十年、旧皇族・竹田家に生まれる。明治天皇の玄孫。慶應義塾大学法学部卒業、平成二十六年三月まで同大法学研究科講師も務めた。






