増える「老衰死」20年で8倍に 日本人の9人に1人、「長寿より天寿」意識の変化も

老衰で亡くなる人が増えている。平成30年には長く三大死因の一角を占めてきた脳血管疾患を抜き、がん、心疾患に次ぐ死因別の3位になった。実数は直近で年間約18万人に上り、この20年で8倍に増えた。高齢者が多くなっているため当然の傾向ともいえる一方、専門家は医療現場の意識の変化など別の要因も指摘。若年世代を含め国民が広く「人生の終わり方」について学びを深める必要性を訴える。

アホの坂田さん、篠山紀信さんも

厚生労働省の人口動態統計によると、令和4年の死亡者数は156万9050人。死因別1位は「がん」の38万5797人、2位は「心疾患(高血圧性を除く)」で23万2964人、「老衰」は3位の17万9529人だった。総数に対する割合は11・4%で、約9人に1人に当たる。平成29年の3位は脳梗塞などの「脳血管疾患」だったが、食生活の改善で血圧の管理などが進み、減少したとみられる。

2月27日には令和5年の速報値(外国人を含む)が公表され、死亡者数は159万人を超えて3年連続で過去最多を更新。一方で出生数(75万8631人)は8年連続最少となり、人口減少、多死社会の傾向がより強くなっている。

老衰死については、死因別の死者数の公表が6月に予定されており数値が固まっていないものの、昨年9月分までの集計データでは全体の11%超を維持しており、上位が続く見通しだ。

昨年末から今年1月に相次いで死去した、「アホの坂田」の愛称で親しまれたお笑いタレントの坂田利夫さんや写真家の篠山紀信さん、女性漫才トリオ「かしまし娘」の正司歌江さんの死因は、いずれも老衰だった。坂田さんは82歳、篠山さんは83歳、正司さんは94歳だった。

死を迎える場所の変化

老衰死が増えている主な要因として、高齢化がある。

総務省の統計(令和6年2月現在の概算値)では、国内の85歳以上の人口は約672万人で、20年間で約2・5倍に増えた。90歳以上では、老衰は死因の1位(令和4年人口動態統計)となっており、高齢者増に伴って老衰死も今後さらに増えることが確実視される。

別の要因を挙げる声もある。死因を判断する立場にある医師らの意識の変化だ。

厚労省による死亡診断書(死体検案書)の記入マニュアルでは、老衰に関する注意点として「死因としての『老衰』は、高齢者で他に記載すべき死亡の原因がない、いわゆる自然死の場合のみ用いる」としている。

関係者によると、大学病院など医療提供体制が充実した機関では、精密な血液検査などが可能であるがゆえに「なんらかの兆候が『見つかってしまう』」。若手医師らに経験を積ませる観点からも、検査を尽くすことが当たり前という風潮があり、主因としては老衰が適当であるようなケースでも、わずかな疾患を診断書に書き込むケースが多かったという。

実は老衰死は、昭和20年代をピークに長く減少傾向が続き、上昇に転じたのは平成13年ごろからだ。これは、同年ごろまでは死亡場所として病院が圧倒的多数を占めていたものの、以降、介護施設などに多様化した。施設で暮らすうちに徐々に弱っていき、死を迎えるようなケースが多く、病院勤務医らに比べて老衰死との判断に抵抗感が低いとされており、これがデータに反映されたとの見方がある。

また、マニュアルは平成7年に国際基準が導入され、自然死など死因があいまいな場合に「心不全」「呼吸不全」としていたケースが認められなくなった。

「攻め」から「引く」医療へ

東京大学高齢社会総合研究機構の機構長で、看取りの経験も多い飯島勝矢・同大教授(老年医学)は、大規模病院の医師らを中心にした老衰死判断に対する〝ハードル〟について、「現状はかなり改善されてきた」と指摘する。

関係学会などを通じ、死に際などを含めた患者の「生活の質」(QOL)に関する知見が深まり、「徹底的に治療を施すような攻めの医療だけでなく、ときには、引く医療も大切」という価値観が浸透していった。飯島氏は、老衰死を「ろうそくの炎が静かに消えるような死」と評した上で、「いわば長寿ではなく天寿を大事にするという考え方が、医療界全体に広がっている。老衰死と結論づけることへの躊躇(ちゅうちょ)のようなものは、かなり薄れてきている」と話す。

具体的イメージ、若いうちから

飯島氏によると、このところの医療現場では、明確な年齢の区分はないものの、おおむね85歳以上の患者が亡くなった場合、心臓などの数値が多少正常値を超えている程度であれば老衰を死因とすることが一般的だという。これより若くても、患者の状態を長年把握してきた主治医がいるケースなどでは、総合的にみて老衰死と判断することもある。

飯島氏は今後も老衰死の増加が見込まれる状況を念頭に、「自分自身や家族らが当事者になる可能性は大いにある。例えば、回復が見込めないからと点滴量を絞るといった処置を医師から打診されたときに、どうするか。一朝一夕で答えが固まるはずはなく、小学校のカリキュラムに組み込むなど、長期的な視点で国民全体が『生き死に』に関する見識を深めていく必要がある」としている。

「死に場所難民」47万人の未来図

終末期への思い、読者から体験談

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