阪神タイガース草創期のエース・若林忠志さん 戦火を逃れた遺品が甲子園に里帰り

若林忠志氏の展示コーナーに新たに史料を寄託した長男の若林忠雄さん=9月、兵庫県西宮市の甲子園歴史館(松永渉平撮影)

阪神が18年ぶりにリーグ優勝を果たし、甲子園球場(兵庫県西宮市)に隣接する甲子園歴史館では11月5日まで特別展示が開催されている。優勝ペナントやトロフィーを一目見ようと連日、多くのファンが足を運んでいるが、その一角に9月下旬、阪神球団史を物語る貴重な展示品が新たに加えられた。プロ野球草創期の投手で監督も務めた若林忠志さん(1908~65年)の遺品だ。米国在住の長男、忠雄さん(88)が5年ぶりに甲子園球場を訪れ、約60年前に57歳の若さで他界した父の思い出をひもといた。(嶋田知加子)

貴重な遺品6点

新たに展示されたのは、若林忠志さんの阪神入団当時の選手証(1936年)▽子供ファンクラブの機関紙「少年タイガース」創刊号(1949年)▽日米親善野球で西軍(日本)の投手として出場した記念盾(1932年)▽日米野球の懸け橋として知られるフランク〝レフティー〟オドールらのサインボール(1932年)▽ベーブ・ルースのサインボール(時期不明)▽米大リーグ・ヤンキースのスカウトを務めた若林忠志さんに贈られた色紙(1955年)-の6点。

忠雄さんが米国で大切に保管していたもので、今回の訪問を機に寄託を決めたという。「こうした遺品は家族みんなが戦争で焼けてしまったと思ってるんです。後世に伝え、父を伝える意味で(多くの人に見てもらう)良い機会かなと。取っておいてよかった」とほほ笑んだ。

忠雄さんの父、若林忠志さんは広島県出身の両親の下に1908年、ハワイ・オアフ島で生まれた。28年にマッキンレー・ハイスクールから旧制本牧中に編入し、法政大、コロムビアを経て、36年に大阪タイガース(現阪神)に入団。「七色の変化球」と呼ばれた多彩なボールを駆使し、球団草創期のエースとして活躍した。

西鉄コーチ時代の若林忠志さん=1963年7月、福岡・平和台球場

戦時下の43年には52試合に登板し39完投、24勝をマーク。42~44年、47~49年には監督も兼任した。45歳まで現役を続け、通算成績は237勝144敗、防御率1・99。65年に57歳の若さで他界した。

忠志さんの大きな功績の一つが、社会貢献や慈善活動の先駆者であったことだ。自費で子供対象のファンクラブを立ち上げ、少年野球の発展やファンの開拓に尽力。孤児らの施設への慰問など慈善活動にも精力的に取り組んだ。現在、球団が社会貢献や慈善活動に功績を残した選手を表彰する「若林忠志賞」につながっている。

青少年育成に尽力

戦後の復興と青少年の育成や善導をテーマとした忠志さんの思いを知る一端が新たな遺品の一つ、49年発行「少年タイガース」創刊号にも垣間見える。

《八月三十日東京目黒の雅叙園にて、私は親しく、高松宮殿下と野球を通じて一夜懇談が出来ました》と始まるコラムには、タイガース子供の会への思いとともに、高松宮殿下にお会いした感激ぶりも率直につづられている。

《石川県下七尾のタイガース子供の会の非常な、大人も及ばない社会的活躍も詳しくお話し致しましたところ、殿下は非常に喜ばれ…(略)》とあり、《ようやく社会的に認められこれからがほんとうの活躍する時機だと思います》と、希望に胸を膨らませている様子が記されている。

「試合前には子供たちを全員外野から入れて、キャッチボールとかをやっていましたね。(忠雄さんが)子供のときに(父は)クリスマスもニューイヤーも家にいなかったんです。かわいそうな子はいっぱいいるから、と」と忠雄さんは振り返る。

もちろん、父との思い出もある。「いっぺんも怒られたことがないんですよ。人の悪口も絶対に言わなかった。ただね、ゴルフの自慢はしてました。野球の自慢はしないけど」

東京・銀座のすし店に連れて行ってくれたこともある。そのとき、父に勧められて初めて食したのがウニだった。「バターみたいだから食べてみろ、とね。おいしかったか? 本当にバターみたいな味でしたわ」。今でも父との思い出の味だ。

今回寄託した遺品は戦時中、戦後と大切に守り抜いてきたものばかりだ。遺品に対しての思いを聞かれた忠雄さんは「涙が出ちゃいますよ。こういうのを見たらね。父のことを知っている人、もうあまりいないんですよ」。甲子園の方向に目を向けながら、球団の発展にも思いを寄せた。

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