勇者の物語

コミッショナー変心「却下」一転 虎番疾風録番外編221

「却下」のサンスポ速報を見入るサラリーマン=大阪・梅田
「却下」のサンスポ速報を見入るサラリーマン=大阪・梅田

■勇者の物語(220)

昭和53年12月21日、日本中が注目する中、巨人と江川の電撃契約に対するコミッショナー裁定が下った。東京・芝の東京グランドホテル3階「桜の間」には新聞23社、テレビ・ラジオ12社、そのほか雑誌社など200人以上の報道関係者が詰めかけた。午後3時、金子コミッショナーがマイクを取った。

「慎重の上にも慎重を期して本日、裁定を行いました」

静まり返った会場に金子の凜(りん)とした声が響く。

「これだけ大きくなった問題ですから、私の能力の及ぶ限りすべての角度から検討してきました。ダメにダメを押して得た結論はやはり『却下』ということになったわけです」

「却下」の裁定に球界は大賛辞を贈った。阪急の山口オーナー代理は「まことに結構な裁定だ。これ以外にないと信じていた」と笑みを浮かべ、日本ハムの三原球団社長も「却下は当然でしょう。あれが認められれば野球界に良識もルールもありませんよ」と語った。

ファンも裁定を支持した。大阪・梅田の地下街、柱に張り出された「却下」を報じる新聞の速報。会社帰りのサラリーマンたちも口々に「当然の結果や」「江川は阪神のもんや」と喜んだ。

朝令暮改、前代未聞の仰天ドラマは翌22日に起こった。午後2時から行われた12球団の緊急実行委員会で、金子コミッショナーが冒頭、次の2点を提案した。

(1)江川は阪神-巨人間でトレードを行う

(2)新人の移籍はシーズン開幕(4月7日)以降-と協約にあるが、これを〝特例〟として破り、両球団間の早期トレードを実施する

「特例として開幕前のトレードを認める。阪神は江川と契約しキャンプイン前に巨人と話し合うようにしたい。これをきのうの裁定の続きとして、みなさんにお諮りしたいのだが…」

水を打ったかのように静まり返る実行委員会。各球団の代表者たちはコミッショナーの言葉にわれの耳を疑った。

一夜での〝逆転指令〟は日本中に大論争を巻き起こした。<なぜ、コミッショナーは変心したのか>。巨人の圧力? 政界それとも財界? いったいどんな力が働いたのか…と。(敬称略)

■勇者の物語(222)

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