勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(203)

「役満」投球 「打たれたら引退」決意の登板

第3戦、完封勝利しナインの祝福に会心の笑顔の足立(中央)=西宮球場
第3戦、完封勝利しナインの祝福に会心の笑顔の足立(中央)=西宮球場

■勇者の物語(202)

第2戦 ヤクルト10-6阪急

二回にマニエルの2号2ランで逆転したヤクルトが〝完全男〟今井を打ち込み1勝1敗。

第3戦は10月17日、舞台を西宮球場に移して行われた。阪急のマウンドには38歳の足立があがった。実はこのとき足立は〝ある決意〟を胸に秘めていた。

第3戦の先発を告げられた15日の夜、足立は恒例になった登板前の麻雀を友人たちと楽しんだ。いつものように右手は使わず、左手で打った。そしてポツリとつぶやいた。

「もし、このシリーズで打たれたら引退する。投手生命を懸けて投げるつもりや」

大事な決断をまるで人ごとのように…。友人たちは足立の静かな気迫に息をのむしかなかったという。7月初旬から悩まされ続けた左ヒザの関節炎。投手にとって致命的といえる故障。この日も病院でたまった水を12CC抜いていた。

◇第3戦 10月17日 西宮球場

ヤクルト000 000 000=0

阪 急 101 100 20×=5

【勝】足立1勝 【敗】鈴木康1敗

足立は〝芸術〟投球を見せた。3安打散発の完封勝利。カーブを見せ球にしシンカーを両サイドに落とす。104球のうちカーブ系はなんと57球。ヤクルトがそのカーブに的を絞ったときにはすでに勝負は決していた。

今回も参謀・牧野茂に解説をお願いしよう。

「足立を攻略するには、各打者が狙い球を作るのではなく、〝カーブ〟と決めたなら、初めのひと回りは1番から9番までカーブを打つ。たとえそれが苦手な打者でもだ。徹底すれば投手も〝狙ってるな〟と考える。相手に考えさせることが重要なのだ」

ヤクルトが足立に何かを考えさせれば、足立もリズムを崩したかもしれない。それが〝攻略の第一歩〟だ-と牧野はいう。たしかに試合後、お立ち台に立った足立は「何も考えず自分の投球ができた」と答えていた。

「山口が腰痛。稲葉も盲腸。ヨシ(佐藤)も不調ときたらボクしかないやない。この緩いタマの専門家しか」

足立は役満をつもり上がったときのような顔で笑った。(敬称略)

■勇者の物語(204)