勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(202)

悪夢の14球 経験の差 聞こえなかった忠告

第1戦、ベンチ前で帽子を叩きつけて悔しがるヤクルト・安田=後楽園球場
第1戦、ベンチ前で帽子を叩きつけて悔しがるヤクルト・安田=後楽園球場

■勇者の物語(201)

長く感じられた3日間…。10月14日、ようやく阪急-ヤクルトの「日本シリーズ」が開幕した。秋晴れの後楽園球場、始球式を務めた美濃部亮吉東京都知事が約3万4000人のファンの声援に手を振って応えた。

ヤクルトが安田、阪急が山田の先発。試合は取っては取り返す猛烈な打ち合いとなった。

第1戦 10月14日 後楽園球場

阪 急 010 010 040=6

ヤクルト001 012 100=5

【勝】山田1勝 【敗】安田1敗

【本】高井①(安田)船田①(山田)マニエル①(山田)大矢①(山田)河村①(安田)

七回に杉浦のタイムリーでヤクルトに5点目が入った。3点のリード。ところが、八回、安田が勝負を急ぎ始めた。高井に中前打、マルカーノに右中間へ二塁打され無死二、三塁。ベンチから広岡監督が飛び出した。「ピッチングのテンポが速いぞ」。だが、監督の忠告も「あと2回抑えれば勝てる」と舞い上がった安田には聞こえない。

島谷に中前へ2点タイムリーされ1点差。そして続く代打河村への1-0からのシュートが高めに…。打球は左翼スタンドへ飛び込んだ。

「河村は一本調子に強い。高めは禁物と言われていたのに…。クソッ!」

わずか14球で逆転された安田はベンチ前で帽子を叩きつけて悔しがった。

山田にもピンチはあった。九回2死満塁で打者杉浦、ボールカウントは2-3。1球もボールは投げられない場面。山田はストライクを投げ続けた。ファウルで粘る杉浦。そして数えて11球目もストライク。根負けした杉浦は二飛に倒れた。技術を超越した山田の精神力の強さだった。

「ピンチであろうとなかろうと投手にとって大事なのは〝間〟です。捕手からタマを受け、ロージンバッグに触れ、帽子をかぶり直す。サインを見る。投球に入る。これらの動作を崩してはいけない。山田が終始、自分の〝間〟を保ったのと対照的に安田は崩してしまった」

ネット裏で巨人V9時代の参謀、評論家の牧野茂が指摘した。

これが日本シリーズの〝怖さ〟。経験した者と未経験者との違いだった。(敬称略)

■勇者の物語(203)