デザインで人と人をつなぐ 松岡恭子の一筆両断

福岡ビル 文化、回遊性、地元らしさ

 建て替えのため先月クローズした福岡ビルには、福岡市民が長く親しんだ場所がたくさんあったと思います。福ビルという愛称で親しまれた建物が完成したのは昭和36(1961)年。以来約60年、商業の中心・天神交差点のシンボル的存在でした。渡辺通り、明治通り、因幡町通りの三方に出入り口があって、通り抜けしやすく、風通しの良い回遊性を街に提供していました。地下街、地下鉄駅に加え、隣のビル「天神コア」ともつながっていました。地下に降りるエスカレーターも建物の中心部に加え因幡町通り側の建物外部にも増設され、積極的に歩行者を地下へ導いていました。しかしそういった物理的な特徴だけでは、これほど多くの市民に愛されなかったと思います。

 天井が高かった1階は、通路と店舗の境界が曖昧で、そこが楽しさでした。渡辺通りから入ると、文具店の「とうじ」が通路に沿って棚を並べ、日本文化が薫(かお)る美しい葉書や便箋(びんせん)が通行者の目を楽しませました。色とりどりのお菓子が並ぶ「風月」のガラスショーケースも、買う人と歩く人の間に境がなくふっと足を止めやすい雰囲気でした。中心にあった「大賀薬局」も、エレベーターを待ちながら商品を眺められる開放的なつくりでした。その奥に約50年間あった「ヤマハ福岡店」は、中2階がガラス越しに見え、楽器やレコード、CDが通路から一望できて立ち寄りやすい、音楽ファンの溜(た)まり場でした。1階全体に境界性が薄く一体感があったのです。用事が無くても、あるいは雨宿りにも、すっと入っていける風通しの良さがこれらの店舗を支えたのかもしれません。

 地下1階の食堂街には、日本の洋食を牽引(けんいん)した「ロイヤル」の旗艦店が瀟洒(しょうしゃ)な入り口を飾る一方、「戸隠そば」「海幸」「エスト」は福ビルの誕生から先日の閉鎖まで、そのたたずまいが安心感と親近感を与えてくれました。私のようにデザインに関わる人にとって、2階と3階にあったインテリアの「ニック」は特別な存在でした。海外の有名な家具や照明器具などを優雅に展示し、「こんな素敵なものに囲まれた暮らしをしたい」と夢を見させてくれた空間でした。世界中からの最先端のセンスに満ちていたこの場所が、多くのデザイン好きを育んだと思います。

 現代の商業施設では、全国展開をしている店舗が多くを占め、また店舗がかわることもしばしばです。対照的に福ビルには、数十年、長いものでは三代にわたって親しまれた息の長いお店、地元色、デザイン、音楽など、文化が染み込んでいました。それこそが愛され続けた理由だと思います。またそれを成り立たせたビル運営にも頭が下がる思いです。

 建築の特徴は、ガラスと金属の外壁、そして石だといえるでしょう。一足先に完成した天神ビルは、有田で焼いた茶褐色のタイルが貼られた重厚感ある外壁です。福ビルはカーテンウォールといって、建物の構造とは切り離した軽い外壁を採用しました。天神交差点の二隅に対照的なデザインが向き合っていたわけです。また外部の1階まわりには、壁やステップの床に驚くほど厚みのある御影石が施されていました。エレベーター扉の周囲や階段の手すりは、今では手に入りにくい美しい大理石で彩られていました。一見地味に見えていた建物でしたが、それらの石をよく見ると当時の建設に関わった人々の誇りが伝わってきます。

 天神ビッグバンの舞台の地権者からなる、天神明治通りまちづくり協議会が目指すのは「アジアで最も創造的なビジネス街」。その重要な一角を担うことになる新しい建物には、福ビルが持っていた文化、回遊性、地元らしさといった魅力を踏襲(とうしゅう)しつつ、次なる時代を牽引するオリジナリティーある姿を市民に見せてほしいと期待が高まります。

                   ◇

【プロフィル】松岡恭子

 まつおか・きょうこ 昭和39年福岡市生まれ。福岡県立修猷館高校、九州大学工学部卒。東京都立大学大学院、コロンビア大学大学院修士課程修了。建築家。設計事務所スピングラス・アーキテクツ代表取締役および総合不動産会社、大央の代表取締役社長。建築の面白さを市民に伝えるNPO法人「福岡建築ファウンデーション」理事長も務める。

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