5年後に控える東京五輪・パラリンピック。新国立競技場やエンブレムなど、競技以外の問題が話題となっているが、主役は何と言ってもアスリートたちだ。大舞台を目指して鍛錬を続けるアスリートだが、企業スポーツの弱体化などから、練習環境は厳しくなるばかり。そんな中、競技に集中できる環境の提供や、引退後の「セカンドキャリア」を見据えたアスリートたちの就職を支援する動きが広がっている。
現役選手にスポット
日本オリンピック委員会(JOC)が平成22年から実施している各競技のトップアスリートを対象とした就職支援制度「アスナビ」。就職希望の現役アスリートの履歴書をホームページで公開するなどして、企業とのマッチングを行っている。
JOCによると、当初は競技を引退した選手を対象とした制度を考えていた。しかし、企業スポーツの休部や廃部が行われるなど、アスリートが競技を続ける環境が厳しくなっていることから、現役選手の練習環境の整備などのサポートに力を入れることになった。
経済同友会の会員企業を対象とした説明会などで、アスリートが自身を企業に売り込む場を設けており、今月7日時点で、73人がアスナビを利用して就職先を見つけたという。
「ニート剣士2世」
「競技の目標に向かって目指していける環境に出合えてうれしい」と語るのは、アスナビを活用して8月に三菱電機(東京)に入社したフェンシングの宇山賢選手(23)。
全日本個人選手権優勝などの実績を持つ宇山選手は、大学卒業後に別の会社に入社。だが、「オリンピックを目指すのに、競技と仕事との両立は難しい」と判断して約半年で退社し、アスナビに登録した。
約1年後に同社に採用されるまでの間は「月に1度は海外遠征もあり、アルバイトとして雇ってくれるところもなかった」。生活費は親に出してもらう状態で、所属先なしで北京五輪で銀メダルを獲得した太田雄貴選手(29)=森永製菓=にちなみ、「ニート剣士2世」と呼ばれることもあったという。
現在は東京都北区の味の素ナショナルトレーニングセンターで練習に専念し、週1で出社。宣伝部の一員として業務に励んでいる。
同社は宇山選手のほかにも、これまでに他競技のトップアスリート5人を採用。広報部の尾崎和史(かずちか)さん(35)は「選手が競技が忙しい中でもいろいろなことを学ぼうとする姿勢を見せたり、試合のときには社員で応援に行くなどして、社内の連帯感を高める面で効果は出ている」と話した。
アドバイスできる指導者少ない
アスリートら「体育会系人材」への就職支援は、JOCに留まらず企業も取り組んでいる。24年に設立された「スポリー」(東京)は、体育会系学生や引退したトップアスリートへの就職支援などを実施。同社代表取締役の丸山和也さん(31)は自身の経験も踏まえ、「スポーツ人材の有効活用」に力を入れる。
高校、大学と柔道の強豪校で活躍した丸山さんは、「アスリートのセカンドキャリア」について疑問を持っていた。「人生をかけてスポーツをやっているのに、現役を引退したら就活の知識がなく、よく分からない会社に入り、よく分からない人材で終わる。指導者には競技が強いだけでなっている人も多く、そういうことに対してアドバイスできる人は少ない」と語る。
大学卒業後に豪州の柔道ナショナルチームを指導し、帰国して会社員などを経て起業。セミナーを通じて悩めるアスリートたちの相談に乗り、希望する職種への紹介を行っている。
丸山さんは、アスリートを企業に紹介する前に、必ず自社の研修を受けさせるという。「『体育会系だからいいでしょう?』というぼんやりとした評価では、後々企業もミスマッチになる。アスリートにキャリアへの意識をしっかり持たせ、何をやりたいか、どういう分野で活躍したいかということを明確にして企業に紹介する」と丸山さん。
これまで、数千人の就職支援に携わってきたという丸山さんの名刺には「体育会系人材が世界を変える」と書かれている。元アスリートたちが、日本のリーダーとして活躍する日が来るのも、そう遠くはないかもしれない。(今仲信博)




