台湾の立法院(国会に相当)で7月末、野党、中国国民党が終戦後、台湾で取得した日本統治時代の資産の回収を目的とした法案が成立した。国民党はかつて「世界一の金持ち政党」と呼ばれ、5月に政権に就いた民主進歩党は長く、国民党が潤沢な資産を選挙に投入し「政党間の公平な競争」を損なってきたと批判してきた。だが、現在の国民党は赤字経営が続いており、法案は「最大野党を抹殺する政治闘争だ」(洪秀柱主席)と反発している。
抵抗むなしく
7月25日の本会議で成立したのは「不当党産処理条例」。行政院(内閣)に「不当党産処理委員会」を設置し、施行1年以内に各政党と関連の企業・団体に、1945年8月15日以降に取得した資産の報告を義務付ける。党費と政治献金、政党補助金を除き、委員会が「不当に取得した」と認定した財産を中央、または地方自治体に返還させる内容だ。表向きは全ての政党が対象だが、戦後、日本統治時代の資産を接収した国民党を狙い撃ちしているのは明らかだ。
法案は、1月の立法委員(国会議員)選で初めて立法院の過半数を得た民進党が、成立を目指してきた。国民党は7月15日の通常会期末の本会議では、法案の修正案を連発する議事妨害で抵抗し、成立を阻止した。だが、民進党は直ちに臨時会の開会を決定。25日に約11時間に及ぶ本会議の末、成立にこぎ着けた。民進党主席でもある蔡英文総統は「台湾の民主政治の発展の一里塚だ」と成立を評価した。
日本資産を接収
国民党政権は終戦後、日本政府や日本人が台湾で保有していた土地や建物などの財産を接収。「党国体制」と呼ばれる一党独裁の下、党にも資産を配分した。ラジオ放送を行っていた台湾放送協会の設備や土地は党営企業の「中国広播公司」に引き継がれ、台湾内に約20カ所あった映画館は、同じく党営企業「中央電影公司」のものとなった。
また、関連の団体の多くが「国有地」を無償に近い価格で借りたり、譲り受けたりした。国民党政権は国共内戦に敗れて47年に台湾に移った後も、長く中国大陸を再統一する「大陸反攻」を掲げていた。中には土地の使用期限が「大陸反攻を達成するまで」という、現在から見れば荒唐無稽な契約もあった。
民進党はこうした「不当」に入手した資産とその運用益が、民主化後も選挙費用として使われてきたと批判。一部は票の買収の資金源にもなってきたとみている。民進党は陳水扁政権(2000~08年)下でも、行政機関による国民党の資産調査を実施。立法院にも今回と同様の法案を提出したが、過半数を国民党系が占めており、成立させられなかった。
総額は藪の中
国民党が関連団体を含めてどの程度の資産を持っていたかは、正確には明らかになっていない。李登輝元総統は7月末、メディアの取材に「(後任への)引き継ぎ時には8000億台湾元(約2兆5000億円)以上あった」と述べた。だが、国民党が3月に公表した党資産の変遷をまとめた報告によると、李氏が後任の連戦氏に党主席を引き継いだ00年3月時点の資産は、808億台湾元(約2500億円)で、李氏の証言と10倍の開きがある。
一方、国民党自体が資産の整理・返還を進めたこともあり、党の資産は昨年末に166億台湾元(約530億円)に減少。年間の平均支出約20億台湾元に対し、約8億台湾元が不足するとしている。実際、国民党が5月に内政部(内務省)に提出した資産報告によると、15年は収入約19億台湾元に対し、支出は約31億台湾元で、約12億台湾元の赤字を出している。
ただ、収入のうち財産信託によるものが約76%を占めており、政党としては特異な財政構造ではある。これに対し、民進党は収入約6億台湾元で、うち党費・政治献金、政党補助金が97%を占める。民進党は国民党自身による資産整理には懐疑的で、関連の団体や企業に資産を付け替えた可能性があるとみている。
焦る国民党
林全行政院長(首相)は今月9日、不当党産処理委員会の委員長に、弁護士出身で民進党の顧立雄立法委員を内定。国民党は、超党派であるべき委員会の趣旨に反すると反発している。
法律では、不当資産と推定された資産は処分が禁止されるため、流動資産不足の国民党にとって痛手となる。このため、党職員給与5カ月分(約2億台湾元余り)の一括前払い案が浮上。関連団体とみなされる可能性の高い社団法人が、法施行前に土地を売却したことが発覚するなど焦りの色が見える。
総統選、立法委員選で大敗した国民党にとって、党の再起に必要な資金源を奪われることは死活問題だ。今後、関連団体の線引きや資産の取得方法が「不当」かどうかをめぐり、委員会側と激しく対立するとみられる。一方の民進党も、権力を利用した政治的報復とみられては有権者の支持が離れかねず、微妙な舵取りが求められそうだ。(台北支局 田中靖人)



