「反核」報道ならオフレコ破りもOK? マスコミのルール無視なぜ許される 潮匡人

「正論」3月号 連載「その言葉、聞き捨てならず」

評論家の潮匡人

昨年十二月十九日付「朝日新聞」朝刊が、こう報じた。

首相官邸の幹部は18日、報道陣に対し、日本を取り巻く厳しい安全保障環境を踏まえ、個人の見解としつつ、「日本は核兵器を保有すべきだ」との考えを示した。この官邸幹部は、高市早苗首相に対し安全保障政策などについて意見具申をする立場にある。ただ、実際に政権内で議論を進めているわけではなく、核不拡散条約(NPT)体制との兼ね合いなどから実現は難しいとも指摘した。》(総合面の囲み記事)

さらに同十九日夜生放送のテレビ朝日「報道ステーション」で、大越健介キャスターがこう述べた。

事の発端は発言を公にしない、いわゆるオフレコを前提にした記者団の取材での発言ですけれども、非核三原則は日本の安全保障政策の根幹に関わる問題であって、我々としてはその内容を報道すべきだと判断しました。え〜、核兵器の保有について、個人として意見を持つのは自由ですが、高市総理に安全保障政策についてアドバイスをする立場にある公人としての発言だけに、重大であり、内外に大きな波紋を呼んでいます。》 

「大越健介の報ステ後記」と題したブログでも、こう述べた。

僕は、この発言を報道した経緯を、番組内で明らかにする必要があると考えた。そして、担当デスクとともにその内容を練ったのが、冒頭に紹介したコメントである。(中略)僕は、日本も核兵器を持つべきだとは思わない。》(十二月二十一日付)

大越キャスターには〝前科〟がある。

二〇一四年一月十五日朝、広島県沖の瀬戸内海で、海上自衛隊の輸送艦「おおすみ」と釣り船が衝突、釣り船の船長が死亡する事故が起きた。

当夜のNHK「ニュースウォッチ9」は「衝突事故が繰り返されるなかで起きた今回の事故」などと印象操作。ゲスト出演した専門家は危惧を抱いたのか、「通常、双方に責任がある」とコメントしたが、大越キャスターがこう、ぶち壊した。

《双方に責任があるとはいえ、これだけ巨大な艦船であり、見張りも配置されている「おおすみ」の側の責任が非常に大きいと思うんですが、「おおすみ」の問題があり得るとすれば、今後どういったことがポイントに…?》

国際法も海上衝突予防法も無視した断罪を加えた上での、悪質な誘導質問である。主な責任の所在は、艦船の大小ではなく、互いの位置関係で決まる。「巨大な艦船であり、見張りも配置されている」から「責任が非常に大きい」とのNHK報道は間違いであり、まったくのウソである(拙著『ウソが栄えりゃ、国が亡びる』KKベストセラーズ)。

その後、広島地方検察庁は「おおすみ艦長」らは衝突を予測できなかったと判断、艦長らを不起訴処分としたが、大越キャスターは非を認めるどころか、民放番組に〝天下り〟。前述のとおり、今も報道番組の顔として〝大活躍〟されている。

話を「核保有発言」に戻す。案の定、内外から声があがった。

北朝鮮による「危険な妄動を断固阻止」との反応には、鈴木一人教授(東大)のX投稿を借りよう。

《お前にだけは言われたくない、という相手に言われるとは…。》

SNS(X)上で「右傾化を深く憂慮する一市民」と名乗る前川喜平・元文科次官は、こう投稿した。

だいたい日本には天然資源も穀倉地帯もない。こんな土地、お荷物になるだけだ。港なら中国にいくらでもある。中国の軍艦が太平洋に出ていきたいのなら、いくらでも日本列島の間を通らせてやったらいい。日本と中国が戦う理由は皆無だ。「中国が日本に攻めてくる」などというのは、重症な被害妄想だ。》

再度、鈴木教授の投稿を借りる。

《こういう人が事務次官をやっていたんだよなぁ…。》

十二月二十日付朝日朝刊一面コラム「天声人語」は、こう書いた。

《日本を取り巻く厳しい安全保障環境を踏まえ、個人の見解を述べたとしても、あまりに軽率な言葉にあぜんとする》

朝日は「核兵器保有論 首相自ら明確に否定を」と題した十二月二十三日付社説でも、批判した。

かりに百歩譲って、問題発言だったとしても、その前にスルーできない問題がある。国民民主党・玉木雄一郎代表のXへの投稿を借りよう。

《しかし、オフレコの話を記事にするメディアも問題では。》

自民党・河野太郎元外相も《そもそもオフレコの場での発言を、相手の了解も取らずに報道する姿勢が大きな問題で、次からはそうしたメディアがオフレコの場から排除されてもしかたがないのでは。》とXに投稿。さらに、Facebookにもこう綴った。

多くの国際会議では、重要なクローズドのセッションは、オフレコまたはチャタムハウスというルールで行われているので、日本のメディアはオフレコのルールを守らない、あるいは日本の参加者はオフレコのルールを恣意的に運用するなどと思われたら影響は大きい。/ルールはルールということを徹底できないメディアはダメだろう。》

そのとおりではないだろうか。少なくとも、私はそう考えるが、どうやら、我々は少数派らしい。

現に、十二月二十日付「産経新聞」朝刊も、こう書いた。

《そもそも、政治家や官僚の発言はオフレコの場合でも内容の重大性によっては破られるケースがある。官邸内でも「立場を分かっておらずあまりに不用意だ」(関係者)と発言した官邸筋の資質を問う声も上がる。》

「官邸幹部」も特定

鶴岡路人教授(慶応大学)の投稿を借りよう。

《で、日本のメディアの定義でのオフレコの場合、属性はどこまで開示可能なのですか? 今回は、単なる「官邸高官」などに加えて、「安全保障政策を担当」云々もありましたね。アトリビューションがほとんど可能な領域に。》

そう、BS—TBS「報道1930」では、堤伸輔コメンテーターが、発言の主は「核軍縮・不拡散問題担当」なのにと問題視しながら糾弾した。そこまで言うなら、いっそ固有名詞をあげて、発言の是非を問うべきでは、と憤慨していたら、案の定〝文春砲〟が飛んだ。

《この当該発言者は匿名の「安全保障担当の官邸幹部」等とされ、いままで明らかになってこなかったが、『週刊文春』の取材で、尾上定正総理大臣補佐官であることがわかった。》(十二月二十五日発売、週刊文春、新年特別号)

他方、同日発売の『週刊新潮』は《高市首相側近 オフレコ「核保有」発言はそんなに問題か》と題した好意的な記事を掲載した。

ちなみに、尾上元空将は、私が三十年以上にわたりお世話になってきた尊敬する先輩である。

先輩は二〇年六月に開かれた座談会で、こう語っていた。

《これは私自身の反省を含めてですが、自衛隊は核についての議論をほとんどしてきていないんですよね。核戦略がどう自衛隊の任務に関係するのか。例えばINF条約の失効後に自衛隊はどう対処すべきなのか。こうした議論はほとんどされていない。》

《アメリカの核の傘、日本への拡大核抑止が北朝鮮に機能するためには、さらに北朝鮮が東京とロサンゼルスへの核攻撃は同じ結果を生むと確信する必要がある。東京に核攻撃をしても米国は第2撃を恐れて平壌への報復を躊躇うだろう、と金正恩が考えたら、日本に差し掛けられた核の傘は破れます。(中略)これは深刻な状況で、日本は米国に対し、先制核攻撃も含めて北朝鮮に対する拡大核抑止の信頼性を高める措置を要求すべきだと思います。必要があれば、F—35をDCAとして運用することも日米で検討が必要でしょう。》(ともに『自衛隊最高幹部が語る令和の国防』新潮新書)

F—35は空自が導入した最新鋭戦闘機。DCAとは核兵器も搭載可能な航空機を指す(『月刊正論』二十一年七月号書評欄拙稿参照)。尾上先輩は、件の記者懇で、以上の趣旨を述べたのではないだろうか。

高市早苗編著『国力研究 日本列島を、強く豊かに。』(産経新聞出版)で、こうも語っていた。

《情報の漏れに関しては宿痾だと思います。防衛省に限らず、日本社会では「ここだけの話だけど」という人間関係のカルチャーが幅をきかせていると思います。》

昨年末の展開を危惧していたかのような発言に驚く。なんとも皮肉な顛末に、悲哀すら漂う。

=評論家

月刊「正論」3月号から)

うしお・まさと

昭和35年生まれ。早稲田大学大学院法学研究科博士前期課程修了。元自衛官

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