パリ五輪女子ボクシングに、世界選手権で女子として出場を認められなかった選手の参加を容認した国際オリンピック委員会(IOC)の判断に波紋が広がっている。さまざまな性のあり方を受け入れる「多様性」が競技にも求められるようになった。男女の性別に基づいた「公平性」と両立できる基準をどのように設ければいいのか、という問いがスポーツ界に突き付けられたといえそうだ。
染色体だけでは
きっかけとなったのは、女子ボクシングのイマネ・ヘリフ選手(アルジェリア)と林郁婷(りん・いくてい)選手(台湾)のパリ五輪出場だ。ともに国際ボクシング協会(IBA)が主催する昨年の世界選手権では、DNAを調べる性別適格性検査で男性の身体的特徴を示す「XY染色体」が確認されたとして不合格になっていた。
性別決定は、X型とY型に分けられる性染色体の組み合わせにかかわる。男性は「XY」、女性は「XX」となる。ただ、性分化疾患(DSD)など生まれつきこの枠組みに含まれない場合があり、染色体だけで性別を判断しきれないケースもある。
「どこからが女性でどこからが男性なのか」。ボクシング女子の東京五輪金メダリスト、入江聖奈(せな)さんがX(旧ツイッター)でこう発信し、早急な線引きの必要性を訴えた。しかし、それは至難の業でもある。
科学的根拠まだ
スポーツとジェンダーを専攻する中京大スポーツ科学部の來田(らいた)享子教授(60)は「筋力に影響を与えるホルモンや染色体などが、競技の優劣を決める要素に、どのように影響しているのかを科学的に検証する必要がある」と説明する。
例えば、ボクシングの勝敗を分けるパンチ力を左右する決定的な要素は、男性に量が多いとされるホルモンのテストステロンなのか。そうした客観的な裏付けを競技ごとに突き詰め、出場基準を導き出さなければならない。だが、「必要な科学的な証拠が出そろっていない」のが現状だという。
公平性と多様性のジレンマは性別だけにとどまらない。体重別による区分を設けている競技も多いが、日本人選手と外国人選手では体型の違いが目立つ。選手同士の年齢も異なれば、練習環境にも差がある。そうした多様な事情は不公平とみなされていない。
基準づくり困難
「競技のレベルや特性も踏まえた丁寧な議論が必要だ」。元フェンシング女子日本代表で、日本オリンピック委員会(JOC)の理事を務めるトランスジェンダーの杉山文野氏(42)はこう話す。
出場資格基準について、IOCは東京五輪後、「性の多様性を理由にアスリートが排除されない」などとする考え方を示している。原則的に各競技団体に基準づくりを委ねたが、パリ五輪女子ボクシングを巡る参加の可否は国際競技団体側ではなく、IOC側が判断した格好となった。
ただ、競技ごとに求められる能力が異なるため、IOCが個々の基準を定めるのは難しくもあり、杉山氏は「国際競技団体ができるだけ早く示すべきだ」と話した。(梶原龍)



































