米サンフランシスコで16日(日本時間17日)、岸田文雄首相と中国の習近平国家主席が1年ぶりに会談をした。45分の予定時間を20分超えて議論が交わされた。会談の内容を知る複数の日本政府当局者の話を総合すると、会談は終始、岸田首相の「攻め」が目立ったようだ。
日本産水産物の輸入停止措置の即時撤廃や、中国で拘束されている邦人の早期釈放など、矢継ぎ早に求めたほか、ロシアとの連携を含む中国による日本周辺での軍事活動の活発化についても「深刻な懸念」を表明したという。
中でも筆者が重要だと思っているのが、中国が東シナ海の日本の排他的経済水域(EEZ)内に大型のブイを設置した問題だ。ブイは沖縄県・尖閣諸島の魚釣島の北西約80キロ、日中中間線の日本側に設置されている。ブイには気象や波の観測器が備わっているとみられるほか、中国側が中間線の存在を否定し、尖閣の領有権を主張する既成事実化を進める意図が透けて見える。
すべての軍を含めた権限を掌握する習氏に対して直接、岸田首相が「ブイの即時撤去」を要求した意義は小さくないだろう。こうした抗議をしなければ、中国側の既成事実を認めることにつながるからだ。
その最たる例が、昨年8月に中国軍が弾道ミサイル5発を日本のEEZ内に撃ち込んだ後の日本政府の弱腰な対応だった。重大な日本の主権侵害にも関わらず、外務次官が駐日中国大使に電話で抗議しただけだったからだ。
口頭の抗議だけで、中国側がブイの撤去に応じる可能性はゼロに近いと言っていい。そもそも、日本政府の抗議は織り込み済みだ。これまで幾度となく、中国側の主権侵害などに対し、日本政府は「遺憾」を表明してきたが、効力があった例は皆無といっていいだろう。
では、どうすればいいのか。筆者は「目には目を」しか対抗策はないと考える。
中国、特に中国共産党の行動原理を説明するとき、「力の信奉者」と筆者は表現している。つまり、いくら口頭で抗議しても馬耳東風であり、実際の行動を重視する傾向にあるのだ。
今回のブイの対抗策で最も効果があるのが、日本政府も日中中間線の中国側にブイを設置することだ。中国は自己否定につながるので抗議をしづらいうえ、存在を否定している中間線を認めることにもつながるので対抗策がとりづらいからだ。
中国が大国となり対外政策も強硬になっているなか、日本政府は「抗議のお作法」を改め、実行力のある対抗策をとることが今、求められているのだ。(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員 峯村健司)




