洋画字幕の戸田奈津子さん「ほかにやりたいことはない」 衰えぬ情熱

洋画字幕翻訳者の戸田奈津子さん(石井健撮影)

米国を代表する映画監督、スティーブン・スピルバーグの最新作「フェイブルマンズ」が、3日から全国で公開される。字幕翻訳は、これまでも多数のスピルバーグ作品を手掛けてきた戸田奈津子さん(86)が務めた。

戸田さんは昨年、来日ハリウッドスターの通訳の仕事を引退したが、洋画字幕翻訳については「依頼があれば、やっております。自分でできないと判断するときまではやろうと思っています」と意欲的だ。

「フェイブルマンズ」は76歳を迎えたスピルバーグ監督の自伝的な物語が、公開前から話題になっている。

戸田さんはトム・クルーズら多くのハリウッド人脈と交流があり、スピルバーグ監督についても「彼の作品は何本も手がけましたが、勘所を押さえるのが、うまいのよね、あの人は」という。

「この新作は、本当にスティーブンらしい映画だなというのが第一印象。優しいでしょ、この映画、とっても」

もっとも字幕翻訳の作業中は、作品を味わう余裕などない。

映像と台本を頼りに、日本の観客が瞬時に理解できるよう、英語のせりふを適切な字数の日本語に置き換える。だが、戸田さんが見せられる映像は完成前など不完全なものである場合が多く、不眠不休の修正作業が公開ぎりぎりまで続くという。

「読みやすくて、お客さんにちゃんと感情が伝わること」。戸田さんが字幕翻訳において心がけていることだ。

「映画って、感情ですからね。ここの訳が間違っているなんて指摘する人もいますが、重要なのは感情がちゃんと伝わることですよ」

観客は、笑いたくて、あるいは泣きたくて、映画館に来る。「それに応えてあげなきゃ。この『フェイブルマンズ』もそう。笑わせたり泣かせたりするでしょ?」

昭和11年生まれ。終戦後の東京で、勤め帰りの母親と待ち合わせをしてたくさんの映画を見た。中学生で英語を夢中で勉強し、大学3年生の終わり頃には、映画と英語に関わる洋画の字幕翻訳者になりたいと考えた。

本格デビューは55年公開の戦争映画の傑作「地獄の黙示録」。20年がかりで夢をつかんだ。

「絶対になりたいと思っていた。だって、それがやりたいんだもの。ほかにやりたいことがなかった。お嫁になんか行きたくなかったし。これしかないから、しようがない」と豪快に笑う。

10日公開のトム・ハンクス主演作「オットーという男」も戸田さんが字幕翻訳を手掛けた。さらに、「待機中の作品もあります。具体的には言えませんが、これも大作です」と意欲は衰えを知らない。(石井健)

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