「ミステリと言う勿れ」倍増した漂流郵便局への手紙

写真家の元田喜伸さんが撮影した瀬戸内国際芸術祭当時の漂流私書箱(久保田沙耶さん提供)

フジテレビ系で月曜午後9時から放映中の連続ドラマ「ミステリと言う勿(なか)れ」に登場した漂流郵便局は、瀬戸内海に浮かぶ粟島(香川県三豊市)に実在する。日本郵便の本物の郵便局とは無関係で、平成25(2013)年の瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)で制作された現代アート作品だ。届け先の分からない手紙を預かる場所で「いつか宛先不明の存在に届くまで漂わせて預かる」というアートだったが、いつしか、手紙に書いて出す行為によって人々を癒やす役割を果たすようになっている。

第2回瀬戸芸で誕生

漂流郵便局は、茨城県出身の現代アーティスト、久保田沙耶さん(34)が東京芸術大大学院生当時、第2回瀬戸芸のコンペに通ったところから始まる。

作品のイメージが決まらないまま、リサーチで粟島を訪れて「波打ち際にたくさんの漂流物がある」のが目に留まった。

粟島港から歩いて10分ほどの元郵便局にたどり着いた。平成3年に新築移転し空き建物となっていた。 粟島は砂などが堆積して3つの島がスクリュー形の1つの島になったという成り立ちがある。「自然によって漂流物が運ばれ、人の手で郵便物が運ばれる。私も何となくここに流れ着いた気がした」。「漂流郵便局」という言葉が頭の中に浮かんできた。

漂流郵便局の住所宛てに「漂流郵便局留め」と書いて出すとはがきや手紙が送れる仕組みだ。久保田さんは「思いが詰まった手紙が届くとか人々の心の支えになるとか想像もしなかった」と話す。

漂流郵便局の中田勝久局長。漂流物で作ったオブジェの数々=香川県三豊市(市観光交流局提供)

架空の「局長」

作品の公開は当初、約1カ月間だけの予定だった。制作協力者で、実際に粟島郵便局長を17年間務めた愛着から旧局舎を所有していた中田勝久さん(87)が「局長」、久保田さんが「局員」という設定で、期間中に3万2414人が来場し、届いた手紙は約400通だった。

終了後に撤去されるはずだったが「届かぬ思いを書いて出す、それが心の癒やしになる」と感じた中田さんが「長く続ければ必要な場所として広く認知されるはず」と自身で管理運営し一般公開を続けてきた。

8年半弱の間に国内外から届いた手紙は4万9100通を超えた。天国の家族に宛てた年賀状は毎年200通近く届く。

ドラマでは、もうすぐ亡くなる自分に宛てた手紙という設定だったが、実際の漂流郵便局には、人だけでなく、長年身に着けたメガネに感謝の気持ちをあらわすなど、物にあてた手紙が届くこともある。

「(漂流郵便局を)つくってくれてありがとう」「実際に訪ねました」という声もたくさん届いた。東日本大震災の行方不明者に宛てた手紙もあった。

中田さんは「いじめを我慢し通した自分宛てなど、周りには打ち明けられない思いをつづったものも。夫に急に先立たれた女性の文面は愚痴から感謝に変わった。喜怒哀楽、いろんな感情が流れ着いてくる」と思い返す。

「世の中は新型コロナウイルスが猛威を振るって大変だ」と天国の家族に報告したり、ロシアのウクライナ侵攻を阻止できない世界への歯がゆさを記したり、そのときどきの出来事への思いも届く。

島に実在する漂流郵便局はアート作品。築55年以上の元局舎がベース。「00.00.00」と記された消印を模した看板が目印だ=香川県三豊市(市観光交流局提供)

書き手の思いに寄り添う

これらの手紙を読みたい人や、書いた本人が届いたのを確かめるために局を訪ねてくる。自分宛ての手紙を見つけた場合は持ち帰ることができる。

中田さんは書き手の思いに寄り添い全てに目を通し消印を押す。「書いたことでその人が癒やされることが一番大事」と言い、内容には深入りせず手紙を預かり思いを見守る立場を極力心掛けているそうだ。「スマートフォンの時代に改めて手紙を書く良さをかみしめてほしい」と訴える。

久保田さんは「私の作品だが、誰のものでもない感じ。今や祈りの場所にみえる」という。

ドラマの原作コミックの作者、田村由美さんは3年前に現地で取材した後、作品に登場させている。緻密なストーリー、独特の世界観、奥深い心理描写などで高い評価を得る。島を案内した中田さんとは交流が続いているという。

ドラマのロケは昨年11月中旬に、俳優の永山瑛太さんらが島を訪れて行われ、中田さんと久保田さんも立ち会った。

第3話に漂流郵便局が登場した直後、毎日10通前後の郵便物が倍以上に増え「ドラマを見てこの手紙を書きます」というものもあった。

久保田さんは「2次創作物を見るのがなぜか怖い」のでコミックやドラマは見ていないそうだが「周りの人から良い評判を聞いて丁寧に扱っていただいた」と感謝している。

中田さんは「しばらく局を開いていないので訪れる人に会うのが待ち遠しい。聖地巡礼で訪れるファンに漂流郵便局の仕組みにも興味を持ってもらえたら」と、再開のときを楽しみにしている。(和田基宏)

◇

開局時間は毎月第2・第4土曜の午後1時から4時まで(不定休)。新型コロナウイルス感染拡大の影響で臨時休館となっていたが、3月26日から再開する見通し。詳しい手紙の出し方や注意事項は久保田さんの著書や三豊市観光交流局のホームページなどで説明されている。

久保田沙耶さんの著書『漂流郵便局』(小学館)では届いた手紙の内容などが紹介されている

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