「動絵画」で非日常を体験 アイキューブド研究所、独自映像技術

3枚の大型ディスプレーからなる作品「海原」。1枚のつながった絵画のようにみえる(アイキューブド研究所提供)
3枚の大型ディスプレーからなる作品「海原」。1枚のつながった絵画のようにみえる(アイキューブド研究所提供)

映像技術開発で定評があるアイキューブド研究所(東京都大田区)は、独自の映像処理技術を駆使し「動絵画」という新たなジャンルを創出した。映像技術者がまるで絵画の画家になったかのように光や映像信号の処理を行い、臨場感がある映像に加工したものだ。自然の風景を動絵画として流せば、オフィスや自宅にいながら非日常を味わえるという。アイキューブド研は今後、〝癒やしの場〟の提供といった空間ビジネスを手掛ける企業との協業を目指す。

人は目でなく脳で映像を認知

昨年11月末、アイキューブド研が大田区西馬込のライフコミュニティ西馬込で開催した「動絵画展」。入り口で手渡されたパンフレットには「これまでとは全く違う、非日常的な映像を体験して下さい」と記されていた。

会場では4作品を展示。絵画展のように額縁に収められたディスプレーに映し出された映像を鑑賞する。満開の桜の木を描いた「春光」は、風でそよぐ一枚一枚の花びらが何層も重なり合ってみえる。しかも左、正面、右と見た角度で木の見え方が変わり、前後に移動すると遠近感も異なる。

違った角度から撮影された3枚の大型ディスプレーを並べた「海原」は、水平線のさざ波から浜辺に打ち寄せる白波まで見事に再現。まるで海辺の別荘から海岸を眺めている感覚を覚える。ディスプレーから離れると1枚の絵画のようにつながってみえる。

その理由について、元ソニーのテレビ技術者で、アイキューブド研を創業した近藤哲二郎会長は「人はそもそも目ではなく脳で映像を認知する。脳に浮かぶ映像(脳内映像)が額縁と額縁の間をつなげ、その人の脳に残っている記憶(情景)を呼び起こしてくれる」と説明。その上で「デジタル全盛期だが、画素(点)という制約がないアナログ回帰を目指している」と話した。

動絵画展で展示された「春光」。咲きこぼれる花びらの一枚一枚が見どころという(アイキューブド研究所提供)
動絵画展で展示された「春光」。咲きこぼれる花びらの一枚一枚が見どころという(アイキューブド研究所提供)

「新たな住空間づくり」提案へ

撮影するカメラ、表示するディスプレーは特別なものではなく、映像技術者が高度な信号処理を施しただけだ。画素で描写する映像とは異なり、ノイズ(映像信号の乱れ)がなく高精細な映像に仕上げることができる。奥行きも感じられ、立体的表現も可能だ。

美術館での絵画鑑賞では、1枚の絵を見る時間は約20秒といわれる中、「海原」は207秒と桁違いだ。20秒の映像を繰り返し流しているだけだが、鑑賞者は気づかない。それだけ映像に没入しているわけだ。

しかし、自宅で鑑賞しようとデジタルカメラで撮影して帰った来場者は「映像はきれいなままだが、会場で見たときの感動がなくなった」という。特別な信号処理を施している動絵画を画素数に制限があるデジタルカメラで撮影すると、制限いっぱいで処理した部分を収めきれず、単なるデジタル映像になってしまうからだ。これでは情景を感じられない。

同社は平成21年の創業以来、脳内での映像認知に注力。「その場にいるような感動を覚える〝脳に優しい〟映像づくり」にこだわってきた。その成果が動絵画につながった。

窓のないオフィスに額縁を置いて動絵画を流せば、旅先で休暇を楽しみながら働く「ワーケーション」を取り入れているような感覚になり、仕事で行き詰まってもリフレッシュできる。脳が活性化して生産性が上がり、新たなアイデア創出などイノベーションにもつながるという。アイキューブド研は、動絵画を活用した新たな住空間づくりを住宅メーカーなどに提案していく。(松岡健夫)