誰もが経験したことのない、100歳まで生きることが当たり前となる時代を迎えつつある日本。どうすれば個人の意識や組織のあり方、社会構造の変革を促せるか。第35回土光杯全日本青年弁論大会(フジサンケイグループ主催、積水ハウス特別協賛)が12日、東京・大手町のサンケイプラザホールで開かれ、若者たちが熱弁をふるった。大会テーマは「私の100歳時代プロジェクト」。論文審査を勝ち抜いた弁士11人のうち、最優秀賞の土光杯、優秀賞の産経新聞社杯、フジテレビ杯、ニッポン放送杯、岡山県出身の土光敏夫氏にちなんで設けられた特別賞の岡山賞に輝いた5人の要旨を紹介する。
土光杯「農業で徳のある国を目指す」
生活の根幹 守り抜く日本へ
松下政経塾 波田大専(はだ・だいせん)さん(29)
無人のトラクターが田畑を耕し、空からはドローンが自動飛行で農薬を散布する。ドラマ「下町ロケット」でも話題となった無人農業ロボットは、衛星からの測位情報をもとに誤差数センチの精度で自動運転を可能にするものです。これが実現すれば、農業の生産性を飛躍的に向上させることができ、日本の農業が抱える人手不足の問題解決に繋(つな)がります。
日本はこうした技術を世界中に広めることで、地球規模での農業の生産性向上に取り組んではどうでしょう。技術力を誇る日本が、最先端農業大国として世界の農業の発展と食料問題の解決に貢献する。そんな世界から尊敬される徳のある国を目指したい。これが、私からの提案です。
私は、昨年春まで6年間、地元北海道の農業団体に勤務しており、無人農業ロボットなどの最先端技術の普及を進める仕事をしてきました。新人時代に農業実習をした農家では、毎年種まきや収穫の繁忙期になると近所の人たちや兄弟が総出で作業を手伝いに来ていました。しかし、ここ数年でそうした人たちも年を重ねて体がもたなくなってしまい、やむを得ず派遣会社に求人を依頼するものの、どこの農家からも求人が殺到する状況で思うように人が集まりません。隣の農家は、人手不足で経営を維持することができなくなり、昨年農地を手放して離農してしまいました。このような光景を現場で数多く目にしてきました。
農林水産省によると、日本の農家の平均年齢は67歳。農業人口はこの15年で何と4割も減少しており、今後も高齢化が進みます。農業現場では人手不足が一刻の猶予もない喫緊の課題となっているのです。
そこで、近年注目されているのが無人農業ロボットです。しかし、普及に向けた最大の課題は国の法整備が追い付いていないことです。例えば、農薬散布のドローンは、自動飛行の機能が備わっているにもかかわらず、農水省のガイドラインによって自動飛行は禁止されています。さらに、ドローンの操縦者に加え、もう1人が補助員として常時飛行を監視することが義務づけられており、1台のドローンを飛ばすのに2人の人手を要するのが現状です。
農業の衰退は国力の衰退に繋がります。最先端技術の普及によって農業を守り抜くことは、私たちの命の源である食料の生産を守り抜くことであり、国民生活の根幹を支える最も重要な課題であると考えます。
「ルールが悪ければ、ルールを改める勇気を持て」
これは行政改革の鬼と称された土光敏夫氏が残した言葉です。私は昨年職場に辞表を出し、政治の道を志す決意を致しました。果たすべき使命は、農業における現代版の「土光改革」であります。規制改革を通じて最先端農業大国日本を実現し、そして世界から尊敬される徳のある国日本を目指し、身命を賭(と)して使命に徹することをお誓い申し上げます。
産経新聞社杯「安楽死という選択」
人生の最期 自分らしく
早稲田大学教育学部2年・大瀧真生子(おおたき・まおこ)さん(21)
「100歳時代プロジェクト」は、多くの人が100歳まで生きる社会を前提にしています。100歳まで寿命が延びるなんてすばらしいと考える人が多いと思いますが、本当にそうでしょうか。果たして100歳まで生きながら自分らしさを失わないことが可能な人は一体どれぐらいいるのでしょうか。自分らしさ、そして自分の意思伝達手段を失った状態でも「生き続ける」ことは、本当に良いことなのでしょうか。
私は日本における安楽死の制度化を提案します。安楽死とは、患者自らが医者から処方された薬を自らの意思で服用し死を迎えるものです。
今後日本は、ますます厳しい状況に直面します。少子高齢化が加速し、社会保障費が国家予算の大半を占めるようになる中で、少子化対策も期待できません。その結果、私たちの世代は、施設に入るお金すらもらえるかわからない。定年後の人生において自分らしさを発揮できるような経済的余裕がないかもしれない。そのような状況の中で人生最期の選択肢に安楽死があってもよいのではないでしょうか。
医療の進歩により死を迎えるのが延びたとしても、病床に臥(ふ)し続け、認知症によって自らの意思伝達手段を失った状態になってまで生き続けたいとは思いません。また、寿命が延びるといっても、経済的に困窮し余裕のない人生の最期は望んでいません。
私は自分らしく生き、自分らしく人生の幕引きを図るという点で、安楽死という制度が、これからの日本にとって必要な選択肢だと考えます。
フジテレビ杯「世界の非常識医療をやめよ。タッチケアが導く健康長寿大国・日本」
暮らしにスキンシップ
整骨院経営・石関祐輔(いしぜき・ゆうすけ)さん(34)
「日本の常識は世界の非常識」。こう聞いて、何が思い浮かぶでしょうか? 私にとっては医療です。日本ではよく使われる高血圧や糖尿病、認知症などの薬。イギリスやフランスでは「使ってはいけない薬」とされています。健康診断やインフルエンザの予防接種。毎年当たり前のように受けているのは日本くらい。こうした結果、昨年度の医療費は約42兆円と過去最高を更新。医療保険制度の破綻が叫ばれている一方で病気は増え続けているのが日本の医療の現状なのです。
整骨院の院長をしておりますが、「タッチケア」と会話を最重要視しております。タッチケアとは、手でやさしく肌に触れるマッサージのことを言います。認知症が改善したり、身体の痛みが和らいだり、さまざまな健康効果が世界中で報告され、治療の中心となりつつあります。
タッチケアは、私たちの日常生活の中にも簡単に取り入れることができます。スキンシップです。しかし、今の日本社会を見たとき、私は危機感を覚えます。電車の中ではゲームやスマホに夢中な親子。スマホ片手に食事をし、全く会話のないカップル…。ある実験によると、スキンシップが一切なく育つと成人前に多くの子供は死に、残った子供も知的障害などが表れたといいます。
私はタッチケアを広めて、生涯をかけて日本の医療を変えていきます。日常生活の中にスキンシップを取り戻し、医療に頼らない健康な国民を作っていくことで「健康寿命100年時代」を作っていきます。
ニッポン放送杯「今ふたたび、技術大国日本に!」
人創り トップが決断を
会社員・清水菜保子(しみず・なおこ)さん(31)
日本を、今ふたたび技術大国に! 日本の技術はとても優れています。しかし、過去経験したことのない「人手不足」という難題に立ち向かっていかなければいけない今、日本はITの世界において技術大国になっていかねばならない。私はそう思います。
100歳時代における最も大きな問題の一つが「人手不足」です。ある調査によると、2030年に不足する人手は約644万人にのぼるそうです。そのうち女性や高齢者、外国人で補えるのは約350万人。残りの約300万人はAI、ロボットといったITの技術革命によって労働生産性を上げていかなくてはいけません。しかし、IT企業の人事として感じるのは、どこも技術者が非常に不足しています。そのような状況で人手不足を補うほどの技術革新は生み出されるのでしょうか。
新しい時代を創るのは人であり、人を創るのは教育です。幼少期からIT技術に触れられる環境を作り、才能ある人材を見つけ、若いうちに海外で最先端の技術を学ばせ、伸ばしていく。優秀な指導者も必要です。海外から良いものを取り入れ、日本人の得意な勤勉、改善、工夫などによって新しい価値を生み出す。そうしていくことで、日本は再び技術大国として世界をリードしていくことができるのではないでしょうか。
ITの世界はスピードが非常に速い。日本の将来を担う技術者を育成すると、トップが決断し、実行していかねばなりません。日本は100歳時代を迎える今こそ立ち上がり、再び技術大国になっていかなくてはいけないのです。
特別賞岡山賞「健康寿命100歳~ 30歳若返ったら何しますか」
未来楽しむ2つの提案
主婦・平井仁子(ひらい・きみこ)さん(34)
年齢を気にして、諦めてしまった夢はありませんか。仮に30歳若返ることができたら、何に挑戦したいですか。介護などが必要ではない年齢「健康寿命」は日本人平均で73歳です。これを100歳まで延ばせたら、人生が約30年増えます。これは30歳若返るようなものです。
本気で「健康寿命100歳」を目指しましょう。具体的な提言を2つ申し上げます。1つ目は「健康保険料キャッシュバックの日」創設です。生活習慣を改善したくなる制度にしましょう。一定期間、病気もけがもなければ、10万円キャッシュバックされる日が、年に一度あればどうでしょう。生活習慣病を減らせるので、国家予算の約半分を占める医療費を削減できます。
2つ目の提言は「大学でのシニア講師養成」です。現在は200以上の大学が公開講座や高齢者向けの入学制度を設けています。大学に通うとなぜ健康になるのか。1つ目は、頭を使うことでボケにくくなる。2つ目は、改めて学生生活を謳歌(おうか)できて、会話をする友人が増える。
高齢者の皆の方々にお願いしたいことがあります。「子供たちの教育者」になってください。例えば小中学校にシニア講師の授業の予算を付けましょう。文部科学省が推進している、地域と学校の連携を発展させるのです。
最後に、万葉集にある額田王の和歌を紹介します。
熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出でな
「さぁ、出発しよう!」という和歌です。人生100歳時代、共に楽しみましょう。






