明治の50冊

(16)松原岩五郎「最暗黒の東京」 体験ルポルタージュの元祖

【明治の50冊】(16)松原岩五郎「最暗黒の東京」 体験ルポルタージュの元祖
【明治の50冊】(16)松原岩五郎「最暗黒の東京」 体験ルポルタージュの元祖
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 《日は暮れぬ、予が暗黒の世界に入るべく踏(ふみ)出しの時刻は来(きた)りぬ》

 飢えに苦しむ貧困層の実態を伝えるために、実際に一緒に生活してみよう。そう考えた筆者は、準備のために数日間、野宿をして食事を抜き、浮浪者を装って、東京・上野の貧民街に身を投じる。

 ところが初日の木賃宿で、熱気や呼吸もままならない悪臭、蚊やシラミ、ノミに悩まされて、まったく眠れないまま一夜を明かし、落ち込んでしまう。

 《実際の世界を見るに及んで忽(たちま)ち戦慄し、彼の微虫一疋(いっぴき)の始末だになすことを得ざりしは、我(わ)れながら実に腑甲斐(ふがい)なき事なりき》

 なんともユーモラスな書き出し。ジャーナリスティックな視点を持ちながら、大上段に構えることなく、正直な気持ちも吐露する。《ああ予はこの日はからずも》《読者試みに想像せよ》…。「等身大」のルポルタージュは、独特の語り口でぐいぐいと読者を引き込んでいく。

 松原岩五郎は、明治25年に国民新聞の記者となった直後から、貧民街の実態を伝えるルポルタージュを次々に発表していった。それを集めて出版したのが『最暗黒之(の)東京』だ。