幕末維新の時代のエピソードを集めた『幕末百話』(篠田鉱造著)に、「道楽隠居」と呼ばれた大名が登場する。第9代松江藩主・松平斉貴(なりたけ)である。徳川家康直系の家柄に生まれ、幼い頃から非凡な才能を示していた。ただし、道楽が過ぎた。
▼江戸の祭り囃子(ばやし)に目がなく、屋敷からは昼夜を問わず、笛や太鼓の音が聞こえていた。江戸を離れたくないと、参勤交代をしなくなった。家老が切腹していさめても、行いは改まらない。とうとう押込(おしこめ)隠居、つまり国元の出雲で、強制的に隠居させられてしまった。
▼舛添要一都知事の道楽も相当なものだ。公務の合間に美術館に通い、インターネットでせっせと美術品を買い集めている。もちろん自腹を切っているなら、なんの問題もない。
▼温泉宿の宿泊費から、コーヒー45杯分の領収書まで、舛添氏の政治資金をめぐって、毎日のように公私混同疑惑が発覚している。疑惑を調査する、弁護士を選任したというが、名前を明かさない。果たして公正な「第三者」といえるのか。「時間稼ぎ」でないのか。不信がますます募る。
▼歴史学者の笠谷和比古(かずひこ)さんによると、江戸時代の武家社会では、主君の悪政や不行跡がやまないとき、家臣団は最後には、廃立へと動いた。いわゆる「主君押込」という行為が、広く存在していたという。平成の世において、都知事に「主君押込」を宣告するのは、来月1日に開会する都議会の仕事であろう。
▼もっとも舛添氏への追及について、前回の知事選で支持した自民、公明両党が及び腰、との指摘もある。次の選挙で勝てる候補を見つけるまで、辞職に追い込めない、というのだ。ぐずぐずしていると今度は都民が、議員の「押込」へと立ち上がるかもしれない。



