「織田信長も豊臣秀吉も死んでから映画になっているんだよ。でも、君は生きているうちに映画になったんだ。凄いことだね」。5月1日に封切られた映画「ビリギャル」はほぼ実話通りに描かれている。有村架純さん演じる主人公ビリギャルのさやかは、現在、ウエディングプランナーとして活躍する小林さやかさん。伊藤淳史さん演じる塾講師坪田は、名古屋市の塾経営者、坪田信貴さん。「君が慶応に受かったら映画になるような話だよ」。小林さんは坪田さんからの励ましを信じ続け、その言葉は現実となった。「頑張ったら慶応大学にも合格したし、映画の主人公にもなれた。人生は変えられるということを多くの人に伝えたい」と話す小林さんは、今回の映画化に際し、方言指導を務めた。
この家族は失敗だ!!
映画の原作となった坪田さんの著作『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』(KADOKAWA)の続編といえるノンフィクション『ダメ親と呼ばれても学年ビリの3人の子を信じてどん底家族を再生させた母の話』(同)が今年2月、出版された。
著者はビリギャルとあーちゃん。ビリギャルは小林さん、あーちゃんはその母、橘こころさんだ。
映画化が決まり、橘さんは母役の吉田羊さん、父役の田中哲司さんら俳優と会い、いろいろな話をしたという。「役作りのために、私の話を一生懸命聞いてくれていたんですね。本当によく私たち家族の性格などを理解して演じてくれていました」。撮影現場を見学した橘さんは俳優たちの熱演に感動したという。
「この家族は失敗だ!!」
深夜帰宅する長女のビリギャル、プロ野球選手になる夢を捨て、不登校になった長男…。映画で父役の田中さんが叫ぶこのシーンも実話が基になっている。
ビリギャルが勉強をさぼってぐれていた頃、両親のけんかは絶えず、家庭は荒れていた。だが、慶応大学を目指し、一心不乱で頑張る長女の姿を見ているうちに、父の態度は徐々に変わり始める。
大雪となり、交通機関がマヒした大学入試の朝。
それまで、ずっと長女を無視していた父が、「入試会場まで車で行くぞ」と早朝からスタッドレスタイヤを準備し、自ら運転し、長女を大学へ連れて行くシーンがある。感動的な場面で、これも実話だ。
「父も本当は寂しかったのだと、後から分かりました」と小林さんはふり返る。
友達のように仲の良い橘さん、小林さん母子を取材していて、やはり気になって聞いた。
「こんな娘思いの母と父を持って、あなたは、なぜ高校時代、ぐれていたのですか?」
小林さんは「毎日、学校から帰ると、母や弟が父から怒鳴られていました。そんな家には帰りたくなかったんです」と答えた。そして、こう続けた。「でも、私が頑張ることで仲の悪かった家族が変わり始めたんです。結局、私のせいだったんですね」
撮影現場でも活躍
「映画の現場は楽しいですね。撮影現場には毎日、通っていたんですよ」
映画「ビリギャル」で小林さんは名古屋弁の方言指導を務めている。
現場では愛知県出身でない俳優に方言の細かいニュアンスを指導した。また、「有村さんから、『このときは、どんな心情でしたか?』などと役作りの相談にも乗っていたんです」と言う。
慶応大を卒業後、小林さんは昨年、結婚。同じく高校でビリギャルだった次女は長女と同じ塾に通い、上智大学に合格。不登校になっていた長男も更生し、真面目な社会人として働いている。
「この家族は失敗だ」。かつて、そう叫んだ父。その父と毎日、けんかばかりしていた母…。
現在は仲を取り戻した両親と、かつて落ちこぼれビリギャルと呼ばれていた小林さんは一緒に試写会場を訪れ、家族揃って映画「ビリギャル」を鑑賞した。約10年前には想像もできなかった、「まさに映画のような光景」だ。
人に限界などない。頑張ることで人生は変わる。家族は変わる。奇跡は起こる-。笑顔で過去をふり返る小林さん、橘さん母子を見ていて、こう確信した。(戸津井康之)




