生産過剰による価格低迷に悩み続けてきた温州ミカン農家が逆襲に転じつつある。国内市場が飽和する中、九州各地の農業協同組合(JA)は半世紀前から、日本産ミカンが好まれるカナダへの輸出を活路としてきたが、ここにきて、アジア市場で温州ミカンの需要が急拡大し、高価格で売れるようになった。こうした販路転換は、国内収穫量の3割を占める九州のミカン農家にとっても福音となる。(津田大資)
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佐賀県南西部の有明海に面した鹿島市山浦。県道309号から農道を車で10分ほど走った山中に、約1千平方メートルのミカン畑が広がる。木には直径3センチほどの青いミカンが多数ぶらさがり、秋の出荷を待っていた。
丹念に育成状態をチェックする生産者の高田弘生氏(62)は「日本のミカン生産は中国や韓国に比べ高コストだが、父がせっかく始めたミカン栽培を続けていきたい。アジアへの輸出が増えているというのは、よい知らせではないでしょうか」と語った。
高田氏がいう通り、アジア市場では今、日本産ミカンに驚きの高値がついている。
農林水産省によると、1キロあたりの全国平均卸売価格(推定)は、香港向けが370円台に達した。220円前後の国内市場向けと比べ、1・7倍の水準となっている。
香港やシンガポール、台湾では富裕層を中心に、韓国、中国産より味や見栄えに優れた「日本産」ミカンが重宝されているからだ。
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ミカンは日本を代表する果物だが、生産農家は苦境続きだった。
昭和30年代、コメの生産調整(減反)の一環として、政府はコメから果物への転作を促した。36年に施行された「果樹農業振興法」に基づき、各自治体がコメ農家にミカンへの転作を指導し、気候が適した西日本にミカン畑が一気に広がった。
この結果、40年代からミカン収穫量が急増した。50年当時の年間収穫量は360万トンで、現在の収穫量(平成25年89万トン)の4倍にもあたる。需給バランスが崩れ、価格下落に歯止めがかからなくなった。
「豊作貧乏」という言葉が使われるようになり、ミカン農家は生産調整の名の下に、果実を間引く「摘果(てきか)」も進めた。
窮地に陥った生産農家にとって、活路となったのがカナダへの輸出だった。
カナダにおけるミカンの歴史は、100年以上前にさかのぼる。
西海岸のバンクーバー近郊で、日本からの移民が栽培を始めたとされる。現地のオレンジに比べて皮がむきやすいこともあり、「テーブルオレンジ」と呼ばれ、普及した。クリスマスには、プレゼントを入れる靴下にミカンを入れる風習もあるという。
九州からカナダへの輸出は佐賀、熊本両県内のJAを中心に拡大した。平成10~15年は、両県合わせて年間3千トン前後のミカンがカナダに輸出された。静岡、愛媛などを含めた全国では4500トンに上る。
だが、カナダへの輸出に、平成19年ごろから急激に進んだ円高がブレーキをかけた。
円高で輸出価格が急騰したことにより、カナダ市場はより安価な韓国産や中国産ミカンが席巻するようになった。
加えて、長すぎる輸送日数の問題があった。
九州産ミカンは博多港から韓国・釜山経由でカナダ・バンクーバーへ船便で運ばれる。到着に3週間かかり、安価なライバルと競争できるほど品質を維持することが難しい。
カナダへの輸出は減少の一途をたどった。平成24年の輸出量は、佐賀、熊本両県合わせて1200トン程度にまで落ち込んだ。
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だが、カナダと入れ替わるように、アジアで温州ミカン人気が高まっている。
台湾や香港、タイなどでは、富裕層を中心においしく安全な「日本産食材」への関心が高い。さらに、輸送に3週間かかるカナダと違い、九州から近いアジアへは3日で届く。高品質なミカンを、おいしいまま届けることができる。
平成24年の安倍晋三政権発足後に進んだ円安も追い風に、まだ微々たるものとはいえアジアへのミカン輸出が進む。
JA熊本市柑橘(かんきつ)選果場担当の村上敦氏は「カナダへの輸出は慣例的に続いているが、農家の収益向上を考えれば、輸出先のアジアシフトを検討しなければならない」と語った。
九州農政局は昨年以降、自治体やJAに対し、アジアへの輸出を強化するよう促している。
さらに、国内市場でもミカン卸売価格の上昇傾向が続く。
昭和40年代後半、1キロあたり100~120円台だった卸売価格は、平成23年に220円台まで回復した。最大の要因は、生産者が築き上げた努力による品質向上だ。
例えば、佐賀県内の多くのミカン農家は、水分を極力与えないことで糖度を上げている。水を通さず空気だけを通す特殊なシートを地面に張ることで、水分吸収を抑制する手法を採用した。この結果、佐賀県産ミカンの統一ブランド「さが美人」は糖度が13度と、平均的なミカンより1度高い。
一方、熊本県農業研究センター果樹研究所(宇城市)は昨年11月、糖度12度以上で傷みにくい新品種「EC11」の育成に成功した。研究着手から開発まで実に14年をかけた。
こうした高品質で競争力のあるミカン栽培が九州で進めば、アジアや国内市場でさらに売り上げを伸ばすことができる。豊作貧乏に苦しんできた栽培農家の収益向上につなげたいところだ。



