新・仕事の周辺

心がぶるっと震えたとき 山崎まゆみ(温泉エッセイスト)

山崎まゆみさん

 両手でお湯を持ち上げる。指の間からさらさらと流れ落ちる湯もあれば、ずっしりと重みを感じさせるものもある。くんくんと匂いをかぐと、ゆでたての卵の皮を剥いた匂いや、さびた鉄の匂いがする湯もある。ひとなめすると、酸っぱいものから、塩っ辛かったり、昆布茶のようなダシのきいた美味(おい)しい温泉もある。

 両親が子供に恵まれず、子宝の湯に通い、私が授かったという話を母から語り聞かせてもらい育った。

 恩ある温泉と対話するかのように書き続けて、18年の歳月がたった。

 先の大戦で、日本兵が戦地で温泉をみつけては湯に癒やされていた話は、度々コラムに書き、著作にもまとめた。「日本兵を癒(いや)した温泉」というテーマで東南アジアやラバウルに通った。

 旧満州や台湾の温泉を求めて行くと、日本人が温泉のそばに街を形成していたことがわかる。日本人の足跡をたどると、そこには必ずといっていいほど温泉がある。

 それほど、日本人にとって温泉はかけがえのないものなのだ。温泉は安らぎを与え、満たしてくれる。心まであたたかさが届く温泉のその力を信じている。

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