正論

自衛官に力与える「安保」審議を 帝京大学教授・志方俊之

 安全保障関連法案の国会審議が始まった。特別委員会の求めがあったとしても、現役の自衛官は事実関係を述べるだけで、法案に関する所見を表明することはない。筆者が自衛隊を退官したのは1992年で23年前のことだから、今の現役自衛官が法案審議をどう見守っているかは全く分からない。

 筆者が退官した時点は国連平和維持活動(PKO)法案が国会で審議中であり、現役の自衛官が活動の対象地となるカンボジアに入ることはできなかった。たまたま自由の身となったばかりの筆者は、首都プノンペンで明石康・国連カンボジア暫定統治機構(UNTAC)事務総長特別代表と面談する機会を得た。

「危険の共有」で得た評価

 今回の国会審議を見て、筆者は「良い時代」が来たものだと思う。今の自衛官は本当に幸せ者だ。野党のお歴々が現地の自衛官のリスクが大きくなり、場合によっては死者が出るかもしれないと心配してくれる。大いに心配して、現地の自衛隊が戸惑わないような法律にしてほしいものだ。

 カンボジアでのPKOには、参加5原則が付されているからリスクはなかったといえるだろうか。自衛隊が5原則を守ったとしても、相手は神出鬼没のポル・ポト派である。際どいことが何件もあったが、現地自衛隊の指揮官と全隊員が一致団結して危機を乗り越えてきた。

 PKOだけではない。その直前に行われた海自による「ペルシャ湾掃海派遣」は、湾岸戦争終了後に自衛隊法に基づく通常の任務として行われた。他国の掃海隊が処理できずに最後まで残留していた危険きわまりない34個の機雷を処分した。うち29個は水中処分隊員が機雷に近づき手作業で処分したのだった。

 わが国は湾岸戦争では130億ドルの資金協力を行ったが、戦後とはいえ、「危険を共有する」海自の行動こそが国際社会の高い評価を受けたのである。

 最も困難だったのがイラク人道復興支援活動だったのではないか。サマワという「非戦闘地域」での活動であったが、宿営地にロケット弾が落下したり、路肩爆弾で陸自車両が攻撃されたり、空自の輸送機が携帯対空ミサイルの脅威にさらされたこともあった。

高く評価したい法整備

 自衛隊員に死傷者が出なかったのは現地部隊が指揮官を中心に全員が規律を守り、団結して士気高く行動したこと、そして「運」が良かったからである。決して「イラク人道支援・安全確保特別措置法」の緻密さが現地の安全を守ったわけではない。

 このように考えてくると、今回の「国際平和支援法案」と「平和安全法制整備法案」は、冷戦終結後の1990年頃に整備しておくべきものだったことが分かる。

 安全保障関連法が整備されていないにもかかわらず、国際社会が求める諸活動のために現地に自衛隊を送ってきた。そして現地の実情に対して十分ではない法律との難しい隙間を自衛隊が埋めてきた。その意味で、今回の法整備を高く評価するものである。

 海外における自衛隊の活動範囲が広くなり、武器使用の枠も拡大されるので、現地における自衛隊員のリスクは急激に高くなると心配する向きもある。しかし、必ずしもそうとはかぎらない。

 法整備がないまま現地の指揮官が武器使用を逡巡(しゅんじゅん)して対応が遅れることで、逆にリスクは高くなる。過剰に反応すると心配する論議もあるが、そこは現地指揮官を信頼してもらうしかない。

 部下を不必要な戦闘に巻き込まずに、任務を達成することが指揮官の務めである。今回の法案では「駆け付け警護」が含まれている。これで現地の指揮官は大きい悩みが一つ消える。

「事に臨んでは危険を顧みず」

 現行の法律でも、自隊の管理下にある市民を守るためなら武器使用は可能である。しかし、管理下にはいないが、自隊から3ブロック離れた街角に日本人を含む民間人が助けを求めている場合はどうするのか。自隊の管理下にはないからと見殺しにできるのか。果たして国民はそんな自衛隊を望んでいるのだろうか。

 これまでの海外活動で、自衛隊に死傷者が出なかったのには「運」もあるだろうが、必ずしもそれだけではない。

 自衛隊は現地で遭遇する状況よりも厳しい訓練をしている。訓練で汗をかき、実任務で血を流さないようにと努めているのだ。その厳しい訓練ですでに1851柱の殉職者を出している。

 自衛官だけではない。海上保安官は日本の海を守るため何人も殉職している。PKOでは警察官も殉職した。イラクでは2人の外交官が殉職している。このような若者たちの命によって国民の安全と生活が守られているのだ。

 自衛官である以上、リスクは当然ある。だからこそ自衛官は「事に臨んでは危険を顧みず、身をもって責務の完遂に務め、もって国民の負託に応える」と入隊時に宣誓しているのである。(しかた としゆき)

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