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【揺らぐ覇権】米の東アジア政策測る3要素 簑原俊洋神戸大大学院教授

簑原俊洋神戸大大学院教授
簑原俊洋神戸大大学院教授

 新型コロナウイルスのワクチン接種が各州で軌道に乗り、約200兆円規模の大型経済対策法案も可決されて徐々に平常に回帰しつつある米国。今月初めには安全保障戦略をめぐる「暫定戦略指針」が発表されたことにより、バイデン政権の対外政策の方向性がある程度見えてきた。

 バイデンは大統領就任に際して「米国は戻ってきた」と声高に宣言したが、その言葉通り積極的に行動している。日本との関係では、在日米軍駐留経費の日本側負担をめぐる交渉で現行水準の1年延期に合意し、今月は外務・防衛閣僚協議(2プラス2)、日米豪印4カ国による戦略的枠組み「クアッド」首脳会合が行われ、来月は日米首脳会談が予定されるなど、スピード感を持って対日コミットメントのみならず、インド太平洋地域への関与を深化させる姿勢を鮮明にしている。

 これらが実行力を伴う「アジア・ピボット2・0」となるかはまだ判然としないものの、米高官による相次ぐ対中発言は、日本にとって大きな安心材料を与える。たとえば、国務長官のブリンケンは3月3日の演説で中国を米国が直面する「最大の地政学的試練」と位置づけ、中国の「攻撃的かつ威圧的な行動」が開かれた国際システムの弱体化につながると容赦ない。こうした発言から、バイデン政権が親中へ傾倒する懸念はかなりの部分払拭できたのではなかろうか。

 とはいえ、こうしたレトリックだけを根拠に、今後のバイデン政権の東アジア政策の展開に安堵(あんど)するのは時期尚早だ。その理由は3つある。

 まずは朝鮮半島情勢。昨年コロナ禍を理由に中止された米韓合同軍事演習だが、今年は図上演習中心という形で再開された。しかし、いずれは野戦演習を含む通常の実施形態に戻る。ならば、しばしおとなしかった北朝鮮が刺激され、朝鮮労働党総書記、金正恩(キム・ジョンウン)がお家芸とする危機誘発・瀬戸際外交に転じる可能性は十分想定されよう。

 次いでロシア。独裁者プーチンの影響力の陰りが見え隠れする中で、斜陽国家と見なして軽視する者も少なくない。だが、大きなずうたいの大陸国家を決して侮ってはいけない。経済力こそ乏しいが、豊富な実戦経験を有するロシアの軍事力は健在であり、何よりも大国としての野心を捨てていないことを肝に銘じる必要がある。

 米国がロシアに対して厳しく臨めば、同国はおのずと中国との利害調整を進め、1930年代の日独関係のように連携強化に一気に動く。その結果、異なる価値観に基づいて国際政治上の線引きが行われ、ふと気づけば、二つの陣営が厳しく対峙(たいじ)することになっているかもしれない。

 最後が米の対中政策だ。ブリンケンは先の演説で、「競争的であるべきところは競争し、協力できるところは力を合わせ、そして必要となった場合は敵対性をもって」接すると述べた。留意すべきは、ここでの「敵対性」なるものは妥協不可で屈服させなければならない存在としての「enemy」ではなく、妥結が可能な「adversary」として位置付けられていることにある。

 つまり、通商や技術をめぐっては競争し、気候変動問題では協力するものの、地政学的覇権の領域では一切譲歩しないとする極めて雑多な対中アプローチにほかならない。だが、これらの優先順位は明示されず、そもそも政策として併存可能なのかとの疑問も生じる。

 バイデン政権は中国との衝突を前提としていないし、また、不可避だとも考えていない。とはいえ、中国の国力のピークは早ければ今後10年以内に到来する。米国と異なり、時間的猶予のない中国には現状静観という選択肢はない。さらに、独裁国家の行動論理からすれば、力に訴えてでも国益をより担保できる形に国際秩序・規範を組み直そうと考えるのは至極合理的である。

 ならば、日本の指導者は米政府の発言に一喜一憂するのではなく、より高い危機意識を持って然るべき覇権挑戦の時代に確実に備えるのが責務ではなかろうか。(敬称略)=随時掲載

     ◇

 みのはら・としひろ 米カリフォルニア州出身。カリフォルニア大デイビス校卒。神戸大大学院博士課程修了。政治学博士。神戸大大学院法学研究科教授。専門は日米関係、国際政治、安全保障。

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