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チュニジア革命10年 青写真描けず 多賀敏行・元駐チュニジア大使寄稿

 「アラブの春」は何をもたらしたのか。答えは「少しばかりの民主化」と「多くの混乱」であろう。エジプト、リビア、イエメン、シリアなどでは政権の崩壊あるいは内戦の勃発につながった。10年後の現在、これらの国々を見ると、独裁者を倒したのに別のさらなる独裁者による強権政治が発生したり、内戦が継続したりしている。

 チュニジアだけが民主的憲法を採択し民主化に成功したが、短期政権が続き、革命の原因の一つであった失業問題は改善されていない。若年者の失業率は35%を超え、1人当たり国民所得も3370ドル(19年)と革命前より800ドル近く落ち込んでいる。

 「革命前の社会は抑圧されていたが、生活は安定していた。今は悲惨だ」という住民も少なくないと聞く。他方、「以前は密告社会で治安当局の迫害を受けていたが、革命後は改善されている」と評価する声もあるという。

 私などは、革命といえばフランス革命やロシア革命を思い出し、いくばくかのロマンチシズムさえ感じる。だが現実の革命を観察するにつれ、それが、独りよがりの思いこみであること、実態ははるかに複雑であることに気づく。

 12年11月、チュニジアを離任する私は民主化の進展の遅さにいらだちを感じていた。そんな私にチュニジアのある知識人が語った。「ポルトガル、ポーランドが、革命のあと民主化するのに10年ほどかかった。フランスに至っては革命後、民主的国家を造るのに100年かかった」

 「アラブの春」の震源地チュニジアの将来がどうなるのか、いまだに青写真を描けずにいる。(寄稿)

■多賀敏行 1950年、三重県松阪市生まれ。一橋大学法学部卒業後、外務省入省。宮内庁侍従、駐チュニジア大使などを経て2015年退官。現在、大阪学院大学外国語学部教授、三重大学、中京大学客員教授。著書に『「アラブの春」とは一体何であったのか 大使のチュニジア革命回顧録』(臨川書店)がある。

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