PR

ニュース 国際

【歴史の交差点】武蔵野大特任教授・山内昌之 中東の新たな日常実現には

 常ならぬものは3つある。中世イランの詩人サアディーによれば、売買を伴わぬ富、議論に欠けた学問、政治のない国家がそうである(『薔薇園』第8章)。中東でコロナ禍を解決するには、この3つが正常に回復されるべきなのだ。

 しかし、コロナ禍を克服する前提として、分裂や内戦が繰り返される中東の国家が一体性を回復し、新型感染症の根絶を優先する条件を整える国は極めて少ない。武漢ウイルスが流入して最大の感染国となったイランは、感染者数が約36万3千人、死者が約2万1千人となっており、感染者数では2位のサウジアラビア、死者数では2位のイラクを引き離している(8月26日現在)。

 イランの数値が高いのは、イスラム政治体制の国是とシーア派宗教者の権威にかけて、モスクを開き集団礼拝をするなど、3密回避に反する密集性をしばらく維持したからだ。イラクの死者数が多く感染者数も4位と高いのは、ナジャフやカルバラなどシーア派の聖地が多く、イランとの往来を自由に続けていたからだ。

 サウジアラビアは今年の大巡礼(ハッジ)こそ海外から外国人を受け入れなかったにせよ、イスラム暦第12月にとらわれぬ小巡礼をしばらく止めなかった。感染者の入国が一時は自由だったのである。ある意味で大局的な柔軟性を発揮せずに、宗教的な原理性に固執した揚げ句に、国家的な戦略性を短期にせよ見失ったのである。

 その結果は、富にもおよび2020年のGDP予測は、イランが6%減、サウジが6・8%減となった。両国と競合するトルコは0・5%増とわずかにプラス成長となっているが、感染者と死者の数は3位となっており、世界銀行やIMFの見通しは予断を許さない。

 イラン・サウジアラビア・トルコといった地域大国がコロナ禍について、議論を重ねた学問的分析から離れて、ある種の陰謀論を唱え他国の悪意だけを強調するのは遺憾である。

 しかし、いちばん悪質なのは、アルカイダやイスラム国(IS)のようなスンニ派過激派武装組織が、新型コロナウイルスは反イスラム迫害者たちへの懲罰であり、ムスリムにも罹患(りかん)者がいるのは、信心が足りないからだと宣伝することだろう。

 そのうえ彼らは、欧米がコロナを「十字軍以来の悪夢」と理解している現在、機を逸せずに欧米を攻撃してセキュリティーシステムを破壊するように呼びかけていることだ。ガザの「イスラム軍団」のように、感染症を敵攻撃の隊列を組織化するために神が与えてくれた贈り物とまで言うのは、決して許される行為ではない。

 中東でコロナ禍を克服しニューノーマル(新たな日常)を実現するには、サアディーのひそみにならうなら、経済と市民生活のために適切に回る富、感染症を科学的に分析・撲滅する学問、民主的な議論を重ねて最適の政治選択をする国家が不可欠なのである。(やまうち まさゆき)

関連トピックス

あなたへのおすすめ

PR

PR

PR

PR

ランキング

ブランドコンテンツ