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【日本の議論】長期化する米中対立 簑原氏「戦争へつまずくかも」 柯氏「蜜月に戻らない」

大阪での首脳会談で握手するトランプ米大統領と中国の習近平国家主席(AP)
大阪での首脳会談で握手するトランプ米大統領と中国の習近平国家主席(AP)

 貿易問題をめぐる米中対立が長期化している。6月29日にトランプ米大統領と中国の習近平国家主席が会談し、交渉再開などで一致したが対立解消のめどは立っていない。東京財団政策研究所主席研究員の柯隆氏と、インド太平洋問題研究所理事長の簑原俊洋氏に今後の見通しなどを聞いた。

 簑原氏「誤算あれば戦争につまずくかも」

 --米中首脳会談を機に対立は収まったのか

 「トランプ氏は中国からの3000億ドル(約32兆円)分の輸入品への第4弾の追加関税は見送ったが、既に課した制裁関税は続けている。5月に事実上決裂した貿易協議を再開させる『小さなディール(取引)』をしただけで、対立の基調は変わっていない。中国による知的財産権の窃取や技術の強制移転に対する米側の不満は解消されておらず、対立が続く」

 --貿易戦争で米国に経済的ダメージはないのか

 「ダメージはある。ただ、多少のダメージはあっても緩和できるし、最終的に勝てるというのが米国の読みだ。例えば、中国は来年11月の米大統領選を念頭に、再選を目指すトランプ氏の急所である中西部からの農産物への関税を引き上げたが、同氏は農家に補助金を出すなど対策を講じている」

 --中国と対立してまで米国が目指すものは

 「世界トップの大国として覇権を維持することだ。超党派の政治家が『ここで対抗しなければ中国に覇権のバトンを渡しかねない』と考え、世論も支持している。覇権を譲らない程度に中国を牽(けん)制(せい)し、弱体化させるのが目標だ。トランプ氏は権威を好み、人権を気にかけないので中国共産党による一党独裁体制の転覆は狙っていない」

 --トランプ氏の再選がなければ対立は和らぐのか

 「むしろ深まるのではないか。トランプ氏はテレビ番組の司会者で不動産会社の経営者だった経歴が示すとおり、再選のために小さいけれども耳目を引く取引をまとめようとする、ショーマンとビジネスマンの要素を併せ持つ人物だ。国家の将来を重視するステイツマン(政治家)が大統領なら、より厳しい姿勢になる」

 --「新冷戦」と呼ばれる対立は「熱戦」に発展しないか

 「対立が覇権をめぐる争いである以上、安全保障に目を配る必要がある。中国はスプラトリー(中国名・南沙)諸島を軍事拠点化して手中におさめ、今や台湾や尖閣諸島(沖縄県石垣市)にまで手を伸ばそうとしている。台湾防衛は米国にとって譲れない一線だ。日本も尖閣諸島を渡さないし、日米同盟は強固だ。中国が『日米は座視する』と誤算して台湾や尖閣諸島に侵攻すれば、戦争へとつまずいてしまうかもしれない」

 --日本はどうすべきか

 「米中どちらかが攻防を諦めて覇権を譲らない限り、対立は終わらない。日本は軍事研究を忌避する考え方を改め、広く安全保障を論じられる環境を早急に整えるべきだ」   (平田雄介)

     

みのはら・としひろ 1971年、米カリフォルニア州出身。カリフォルニア大デイビス校卒。神戸大大学院博士課程修了。博士(政治学)。同大学院法学研究科教授。専門は日米関係、国際政治。

 柯氏「蜜月に戻ることない」

 --米中首脳会談の評価は

 「大きな利益を得たのは中国で、最大の成果は時間を稼いだことだ。中国共産党の指導部や長老らが重要政策を話し合う『北戴河(ほくたいが)会議』が間もなく開かれるが、習氏にとって最大のリスクはその場で米中対立が深刻化した責任を問われることだろう。首脳会談では交渉決裂を避けられたうえ、中国側の重要な譲歩内容がまったく漏れていない。中国経済に衝撃を与える追加制裁の発動も見送られ、習氏には最高の首脳会談になった。絶妙なタイミングでの習氏の訪朝も対米カードとして効いた」

 --次に局面が動く時期は

 「9月が注目される。中国では北戴河会議が終わり、米国では大統領選が本格化する。米側によると既に9割程度の事項は合意済みで、残るのは交渉ではなく決断だ。習氏が決断すればすぐに合意できる状況にある」

 --交渉の障害は

 「習政権としては、譲歩しすぎれば国内強硬派から『弱腰外交』との批判を受ける。一方のトランプ氏も支持者にタカ派が一定数いるため、中国との合意でその層が離れれば大統領再選が難しくなる。そのため合意という前向きなシナリオが挫折するリスクは十分にある」

 --米中対立の長期化による中国経済へのダメージは

 「以前から兆しはあったが、特に農村からの出稼ぎ労働者の失業が深刻だ。さらに米国から輸入されている穀物に25%の追加関税が掛けられ、食品を中心に物価上昇も懸念される。景気停滞下で物価高が進むスタグフレーションに陥る恐れが高まっており、これが習政権が直面する最大の経済課題だ」

 --景気悪化で庶民の不満が中国政府に向かう可能性は

 「そのシナリオは徐々に現実味を帯びている。いつXデーを迎えるかは誰にも分からず、当局の緊張感は増しているはずだ。そんな時に香港で、大勢の人々が政府に『ノー』を突きつける事態が起きたのは北京にとり頭の痛い問題だろう」

 --トランプ政権が終われば米中関係は元に戻るのか

 「中国の台頭がここまでくると米中の覇権争いは避けられず、蜜月に戻ることはないだろう。米国は中国の国家戦略の要衝を見極めてそこに一撃を繰り出し、戦っては一時停戦するという繰り返しが続くことになる。中国側の最大の失敗は、ハイテク産業育成政策『中国製造2025』といった看板を掲げて米国を刺激したことだ。今後も『中国の夢』は見続けるが、象徴的な看板を目立たなくさせてひそかに国力を上げるという方針に習政権は軌道修正したとみている」 (三塚聖平)

か・りゅう 1963年、中国江蘇省南京市生まれ。88年来日。愛知大法経学部卒、名古屋大大学院修士課程修了(経済学修士号取得)。富士通総研経済研究所主席研究員などを経て、2018年から現職。

 【記者の目】深刻化を続けてきた米中対立をめぐっては、トランプ氏の「交渉好き」「気まぐれ」といった特異な個性に着目し、「トランプだから中国との衝突が激化している」とする見方が少なからずある。

 中国側では当初、逆に「賢いビジネスマンのトランプだから、遠からず米中対立は落ち着く」という楽観的な予想が目立ったが、今では「米中対立は一時的なものではなく、トランプ政権後も続く」という分析が広がっている。その背景には、米政府の強硬な対中政策を議会が超党派で支持している現実がある。

 トランプ氏の過激な発言が米中対立の本質を見えにくくしている側面があるとはいえ、「トランプだから」という先入観を排し、両国関係の現状と将来を冷静に展望すべきだろう。とりわけ両大国のはざまに立つ日本にとって欠かせないことだ。 (三塚聖平)

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