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【黒瀬悦成の米国解剖】「平常」を説くジョーおじさん

合衆国沿岸警備隊アカデミーの女性隊員と写真を撮るジョー・バイデン副大統領=2013年、コネチカット州ニューロンドン(AP)
合衆国沿岸警備隊アカデミーの女性隊員と写真を撮るジョー・バイデン副大統領=2013年、コネチカット州ニューロンドン(AP)

 「この国は(政敵らとの)遺恨にこだわり続ける大統領をあと4年も在任させておくことはできない」

 4月5日、米ワシントン市内のホテルの大広間。来年11月の大統領選の民主党候補指名争いに近く名乗りを上げると目されているジョー・バイデン前副大統領(76)は、トランプ大統領を舌鋒(ぜっぽう)鋭く攻撃した。

 1972年に上院議員に初当選した当時からの支持母体の一つである「国際電気工組合」の会合だけに、反応は良好だ。

 わき起こる拍手に意気上がるバイデン氏を見て、確信したことが2つある。

 一つは、突如浮上した最近の「セクハラ疑惑」くらいでは同氏が出馬を断念する気は毛頭ないこと。

 もう一つは、大統領選で勝利するには、敵対勢力や報道機関をツイッターなどで激しく罵倒するトランプ氏の言動や、時に気まぐれとしか思えない政策運営を「尋常でない」と執拗(しつよう)に批判を重ねることが、最も有効であると見抜いていることだ。

 「平常に戻ろう」。バイデン氏が伝えようとしているメッセージは明白だ。

 「平常に戻れ」とは、実は約100年前の20年大統領選に勝利した共和党のウォーレン・ハーディング候補が選挙戦のスローガンに掲げた言葉だ。18年に終結した第一次世界大戦の後の米国は、ウィルソン民主党政権の下、不況が深刻化し、労働者のストライキや暴動が頻発していた。ウィルソン氏の「無策」を主要争点に据え、大戦前の「平常な状態」を目指すとしたハーディング氏の訴えは、社会の混乱に疲れた有権者の心に強く響いた。

 昨年の中間選挙で民主党が下院の過半数を奪還できたのは、2016年大統領選でトランプ氏に投票した中道穏健派層を一定程度取り戻すことに成功したからだ。その意味で、「ジョーおじさん」の異名をとり、穏健な共和党支持者にも人気のある中道派のバイデン氏が民主党候補として本選に臨めば、同党の勝機は確実に広がるだろう。

 しかし、バイデン氏は1988年と2008年大統領選の民主党候補指名争いに出たものの、いずれも惨敗しており、今回指名を獲得できる保証は全くない。

 民主党にとってさらに厳しいのは、仮にバイデン氏が指名争いに敗退した場合、党としてトランプ氏を「異常」と決めつける戦術をとったとしても、急速に左傾化が進む同党には同氏の対抗軸となりそうな「平常を取り戻す」候補がほとんど存在しないことだ。

 民主党で勢力を増す「リベラル派」あるいは「民主社会主義者」を自称する面々の大きな勘違いは、先の中間選挙での同党の躍進が、有権者が医療保険制度改革や環境問題などで急進左派的な政策を信任したと思い込んでいる点だ。

 たとえ支持率の上昇につながっていないとしても、トランプ氏がこの2年余で経済を大きく成長軌道に乗せたのは堂々たる功績であり、有権者に対しては極めて大きなアピール材料だ。

 これに対して民主党が産業構造を根本的に変えかねない環境政策の「グリーン・ニューディール」や国家財政に多大な負担を強いる「国民皆保険」をぶつけたとしても、とてもトランプ氏の敵とはなり得ない。(ワシントン支局長)

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