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【緯度経度】韓国で時ならぬアカ論争 黒田勝弘

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三・一独立運動記念日に、演劇を披露する俳優ら=1日、ソウル(AP)
三・一独立運動記念日に、演劇を披露する俳優ら=1日、ソウル(AP)

 最悪といわれる日韓関係を背景に注目された文在寅大統領の3月1日の「三・一独立運動100年記念演説」は、現実の日本との関係では提携の必要性を語るなど意外(?)におとなしい内容で、日本としては肩すかしを食わされた形だった。日本ではもっぱら反日的だとして“悪評判”の文大統領だけに、今回は多少気を使ったのかもしれない。

 それでも「抗日デモ100年記念」ということで、ソウル都心をはじめ各地で当時のデモの再現など反日・愛国イベントやパフォーマンスがにぎにぎしく行われた。日本当局は韓国旅行の日本人に対し事前に注意を呼びかけていたようだが、韓国人旅行者が年間760万人も機嫌良く日本に出かけるご時世だから、韓国で日本人にそんな“危険”があるはずもない。

 ただ、政府行事が行われたソウル都心の「光化門広場」一帯には数万人の人出があり、祝賀イベントの一つで在日韓国人の歌手が韓国の歌曲『鳳仙花』を日本語で披露したコーナーでは一悶着(もんちゃく)あった。右翼的雰囲気のオジさんたち数人が「こんな日に日本語の歌とはケシカラン!」といって舞台に押しかけ、主催者側ともみ合ったのだ。

 『鳳仙花』は抗日愛国の歌として日本でもそれなりに知られている。そこで歌手および主催者はよかれと思ってやったのだが裏目に出た。日本語に反発することでオジさんたちは愛国心をみんなに誇示できたようだった。現在の韓国で日本語への拒否感は皆無だが、どうやら時期と場所がまずかったか。近年では珍しい風景なので報告しておく。文大統領の「三・一演説」をめぐってはその後、国内問題として尾を引いている問題がある。

 昔から韓国では親・北朝鮮派や左翼勢力は保守派や一般庶民からは「パルゲンイ」といって非難されてきた。共産主義を象徴するカラーの「赤」を意味する韓国語で、現在の文政権についても政治的非難用語としてよく聞くが、文大統領は今回の演説で、この言葉は日本統治時代に日本当局が抗日独立運動家たちを弾圧するため使ったものだとし、「親日清算」のため用語追放を主張したのだ。つまり「パルゲンイ(赤)」という非難用語は民族独立運動を否定する“親日用語”がルーツだからケシカランというのだ。

 日本で以前、共産主義者を「アカ(赤)」といって社会的に非難したことや、朝鮮半島の抗日独立運動に共産主義者も含まれていたことは事実だが、「アカ」が抗日独立運動家を意味したわけではない。文演説はそこを巧妙に、相手を「アカ」といって非難するのは独立運動家を弾圧したことと同じで「親日」であると決めつけたのだ。

 韓国では「親日」とか「親日派」という言葉は、いまなお民族的裏切り者とか「売国奴」の意味を持たされている。そこで文大統領は文政権を「パルゲンイ(赤)」といって非難する保守・右翼勢力に対し、そういうことを言うのは「親日」だといって逆襲したというわけだ。

 保守派は「パルゲンイ」なる言葉は朝鮮戦争の後、北朝鮮や親北派への非難として一般化した用語で日本統治時代は無関係といい、逆に「表現の自由を守れ!」の声さえ出ている。大統領演説の発想は「それは親日だ!」といえば相手を黙らせることができるということだから、韓国ではいまなお親日・反日論は大いに政治的利用価値があるというわけである。(ソウル駐在客員論説委員)

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