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【映画深層】仏映画「ジュリアン」 DV問題にメッセージ

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映画「ジュリアン」から。父親と過ごすことになった11歳のジュリアンは… (C)2016 - KG Productions - France 3 Cinema
映画「ジュリアン」から。父親と過ごすことになった11歳のジュリアンは… (C)2016 - KG Productions - France 3 Cinema

 初めての長編でベネチア国際映画祭の監督賞という栄誉を手にした。「偉大な監督が並ぶ中でそのような評価をしていただいたことは、非常に光栄に思っている」と素直に喜ぶのは、俳優としても活躍するフランスのグザヴィエ・ルグラン監督(39)だ。受賞作「ジュリアン」が1月25日に日本で公開されるのを前に、11歳の主人公を演じたトーマス・ジオリア(15)を伴って来日したが、「最初に彼を見たときは嫉妬を覚えたよ」と、その卓越した演技力を褒めたたえる。

恐怖の表情を細かく指示

 「ジュリアン」は、確かに演技とは思えないほどリアルなジオリアの表情が強く印象に残る作品だ。

 11歳のジュリアンは、両親が離婚し、母親のミリアム(レア・ドリュッケール)と姉の3人で暮らしていた。だが父親のアントワーヌ(ドゥニ・メノーシェ)はジュリアンの共同親権を主張。「二度と会いたくない」とのジュリアンの訴えもむなしく、裁判所が共同親権を認めたことから、ジュリアンは隔週末に父親と過ごさなければならなくなる。

 冒頭の裁判の場面から緊迫感がみなぎり、家族関係がただならぬ状況であることが伝わってくる。車を運転するアントワーヌが助手席のジュリアンにいらいらをぶつける場面では、ジオリアの顔はほとんど泣きそうなくらい恐怖に引きつっていて、思い切り感情を揺さぶられる。

 「このシーンは、リハーサルのときから重要だといわれていて、何度も何度も練習した。本番の撮影に入ると、リハーサル以上に監督から事細かく指示が飛んで、とても深い場面になった」とジオリアが振り返れば、ルグラン監督は「実際には殴られないし、君が危険にさらされることはないが、殴られるかもしれないという恐怖の感情をぜひとも表現してほしいと説明した。こんなすばらしい役者と出会うことができて、とても誇りに思います」と満足そうに話す。

100通りの方法で指揮

 「ジュリアン」は、ルグラン監督が2012年に手がけた短編映画「すべてを失う前に」が下地になっている。ドメスティックバイオレンス(DV=配偶者暴力)をテーマにしたこの作品は、米アカデミー賞の短編映画賞にノミネートされるほど高い評価を獲得。夫婦役などはそのときと同じ配役で、新たに子供目線を盛り込む形で長編に仕上げた。

 「私は映画の学校を出ておらず、専門の知識もないが、出演者もスタッフもみんな理解してくれて、デビュー作でこんなに恵まれた監督はまずいないでしょう」と幸運を喜ぶ。

 もともと役者を目指して10歳のころからレッスンを受けていた。中でも小学生のとき、車いすの障害者として主役を演じたコメディーの舞台が、ルグラン少年に表現することの楽しさを芽生えさせた。

 「障害という厳しい現実でも、笑って表現することで観客の障害者が笑顔になる。そのことにこの上ない喜びを感じました」

 コンセルバトワールの名称で知られるフランス国立高等演劇学校を卒業し、チェーホフやシェークスピアなどの舞台のほか、フィリップ・ガレル監督、ブリジット・シィ監督らの作品に出演。同時に若い俳優に演技指導することにも熱心に取り組み、徐々に作り手への流れができていった。

 「シナリオを書くことにも興味があったが、演劇の戯曲はフランスでは敷居が高く、映画の方が向いているのではないかと思った。俳優を指導していて、100人いれば100通りの方法があると感じていたが、監督をすることでそのことを確信した。オーケストラの指揮者のように、あらゆる演奏者の持ち味を探して調和の取れたハーモニーを奏でるようにするのが監督の役割なんです」

自身を投影して感じる力

 こうして作り上げた初の長編監督作が、17年のベネチア国際映画祭で監督賞に当たる銀獅子賞を受賞。短編のときはまだ実感がなかったが、これからも監督として世界に向けて発信していくことができるのではないかという自信と自覚が生まれた。

 「映画は、人間が直面するさまざまな問題に対し、見る人が自分自身を投影して何かを感じ取ることができるもの。そんな映画の力を信じています。『ジュリアン』では、世界中で社会問題になっているDVを題材に据えたが、実際は表に出てこないケースも多い。危険な目に遭っている女性たちには勇気を持って立ち上がってほしいし、DVの男性には暴力を振るっても何の役にも立たないというメッセージを込めた。さらに政府に対しても、何らかの措置が必要だという思いが含まれています」

 「できればずっと俳優を続けて、もう一度、ルグラン監督と一緒に映画を作りたい」と語るジオリアに対しては「いろんな監督のもとで経験を積むことが大事だと思う。恐らくいずれ、そのような機会があるでしょう」と、再会を楽しみにしていた。(文化部 藤井克郎)

 グザヴィエ・ルグラン(Xavier Legrand) 1979年、フランス中央部のムラン生まれ。フランス国立高等演劇学校で演劇を学び、チェーホフ、シェークスピアなどの作品の舞台に加え、フィリップ・ガレル監督、ブリジット・シィ監督らの映画に出演。2012年には短編映画「すべてを失う前に」を初監督、米アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされたほか、クレルモン・フェラン国際短編映画祭では4部門で受賞を果たす。初の長編となる「ジュリアン」は、17年のベネチア国際映画祭で銀獅子賞(監督賞)、サンセバスチャン国際映画祭で観客賞など、数々の賞に輝いた。

 「ジュリアン」は、1月25日から新宿シネマカリテ(東京都新宿区)、ヒューマントラストシネマ有楽町(千代田区)、アップリンク吉祥寺(武蔵野市)、名演小劇場(名古屋市東区)、シネ・リーブル梅田(大阪市北区)、シネ・リーブル神戸(神戸市中央区)、26日からキネマ旬報シアター(千葉県柏市)、千葉劇場(千葉市中央区)、京都シネマ(京都市下京区)、2月2日からシネマ・ジャック&ベティ(横浜市中区)、9日から東座(長野県塩尻市)などで順次公開。

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