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【一筆多論】「江沢民氏ら手配」の表と裏 西田令一

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【一筆多論】
「江沢民氏ら手配」の表と裏 西田令一

 スペインだけではない。普遍的管轄権を設定していたベルギーの裁判所に、1991年の湾岸戦争を遂行した前述のブッシュ元大統領、チェイニー元国防長官、パウエル元統合参謀本部議長らが戦争犯罪で告訴されるという事態が2003年に起きて、ベルギーはやはり米政府の圧力で普遍的管轄権を撤廃するに至っている。

 その辺の事情は、時の米国防長官ラムズフェルド氏の回想録「ノウン・アンド・アンノウン」に詳しい。氏は、キッシンジャー氏が米国務長官時代に東南アジアなどで戦争犯罪に関わったとして、今も外国訪問のたびに法的手続きの脅威にさらされていると語ったことでこの問題を認識したとし、ベルギーの一件に触れる。

 ラムズフェルド氏は、03年の北大西洋条約機構(NATO)国防相会議の際にベルギーの国防相を別室に呼び、「他の場所で会合するのは完全に可能だ」と、NATO本部を首都ブリュッセルから移すと警告した。法律は2カ月足らずで廃止されたという。

 米国が神経を尖(とが)らせる「国境なき裁判」の典型が、人道犯罪などを裁く国際刑事裁判所(ICC)であり、歴代政権はその設立条約を批准していない。氏は「われわれは…選んでいない公職者や責任を課すことができない法廷に海外から治められも裁かれもしない」との原則論を強調し、主権と民主主義の問題だと断じる。

 普遍的管轄権とは、その切っ先が手を血で汚した独裁者にも民主主義国家指導層にも向かう「諸刃(もろは)の剣」だといっていい。(論説副委員長)

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