「人気ドラマ見たいなら」…中国ユーザーに“踏み絵”迫ったベトナム海賊版サイト

ASEAN見聞録
ベトナムの動画サイトで閲覧可能だったという中国の人気ドラマの案内(英BBC放送中国語版サイトより)

 アジアのドラマを視聴できるベトナムのサイトに、中国ドラマを見ようと中国のファンによるアクセスが殺到したことが、ネット上で大きな問題となった。中国の正式サイトよりも早く海賊版を配信したうえ、視聴条件として、ベトナムが中国と領有権を争う南シナ海の諸島が、ベトナムに属すると回答させていたためだ。南シナ海のほぼ全域で「主権」を主張し、公船でベトナム漁船を攻撃する中国に対し、ベトナム市民の間では反発が強い。主権主張をめぐる対立が、中国人ユーザーへの“嫌がらせ”に発展した形だ。(シンガポール 吉村英輝)

 この連続ドラマは、清朝の宮廷を舞台にした『延禧攻略』。女官から皇后まで上り詰めた女性を描いており、繊細な小道具や衣装などにも注目が集まっているという。

 ロイター通信(ハノイ発、8月24日配信)によると、独占配信権を持つ中国の動画サイト「愛奇芸」が56話までは無料で配信し、続きの8話はサイトの会員だけが見られる形で課金される仕組みだった。

 ところが、アジアのドラマなどを視聴できるベトナムの動画サイト「bomtan.org」で、海賊版とみられる同ドラマの閲覧が可能になり、さらに中国の公式サイト「愛奇芸」が配信しているよりも、さらに先の話までが閲覧できるようになっていた。

 この情報が中国のネット上で流れ、無料のうえに、ストーリーの先の展開まで観られると知った中国人ファンが、このベトナムの動画サイトに殺到した。

 ところが、ネット上の住所を示す「IPアドレス」が中国だった場合、このサイトの最初の画面には、ベトナム語で「このサービスはベトナム人だけが利用可。次の質問に答えなさい」との表示が現れ、回答しないとサイトに入れない仕組みとなっていた。

 質問は、「ホアンサ(パラセルのベトナム名、中国語・西沙)諸島とチュオンサ(同じく、スプラトリー、南沙)諸島はどの国に属すか」として、答えはベトナム、中国、フィリピン、日本の4択だった。

 中国語のネット上では、ベトナム語が分からないユーザー向けに、ベトナムが描かれた場所を選択すればドラマを見られるとの書き込みがあり、多くのファンが、自分が何に回答しているのかも分からず、サイトを利用していた。

 中国語の英BBC放送(電子版、8月25日付)が伝えたその質問の項目には、南シナ海の他に、ベトナムの首都と国家に関する選択問題もあった。中国からアクセスしたファンは、ネット上の「指南書」を見て知らない間に、南シナ海の領有権がベトナムに所属するとの“踏み絵”を踏まされ、中国でもまだ見られなかったドラマのシリーズを楽しんだようだ。

 ロイターによると、ドラマの配信元は8月20日、オンラインの動画配信業者に著作権の侵害を行わないように求め、違法な海賊版ドラマを削除するよう促した。その後、「bomtan.org」からはドラマ『延禧攻略』は姿を消したが、中国からサイトに入ろうとするユーザー向けの南シナ海に関する質問はしばらく残されたという。

 ネット上では、中国のドラマファンが「ベトナムに中国ドラマが盗まれたばかりか、中国の領有権まで盗られた」といった書き込みがみられたという。ドラマを餌に、中国が実効支配するパラセル諸島の領有権がベトナムに帰属すると回答させられていた、中国のドラマファンの「激高」ぶりをロイターは伝えた。