【アフリカウオッチ】頻発する票操作疑惑→衝突 日本人が意識しない「信頼される選管」のありがたさ - 産経ニュース

【アフリカウオッチ】頻発する票操作疑惑→衝突 日本人が意識しない「信頼される選管」のありがたさ

8月1日、ジンバブエ・ハラレの野党、民主変革運動(MDC)の本部前で、支持者をたたきつける兵士ら(ロイター)
野党、民主変革運動の本部周辺に集まった群衆を追い払うため、発砲する兵士=8月1日、ジンバブエ・ハラレ(ロイター)
 アフリカで注目が集まる選挙が近づくと憂うつな気持ちになる。選挙管理当局が票を操作したとの疑いが広がり、民衆と治安当局が衝突してしばしば死傷者が出るからだ。言うまでもないことだが、選挙には国の行く末を決める重大な意義がある。選挙の“レフリー役”である選管の中立性が疑われると、どのような事態が起きるのか。日本の読者に公平な選挙の重要性を改めて確認してもらうために、いくつかの事例を紹介したい。(カイロ 佐藤貴生)
早くもつまづき
 ジンバブエで7月末、大統領選と議会選の投票が行われた。1980年の国家成立以来、強権体制をしいて国民を苦しめてきたムガベ前大統領が昨年11月、事実上のクーデターで辞任したため、「国家再生の好機」として海外メディアの目も注がれた。
 大統領選には23人が立候補し、ムガベ氏の辞任に貢献した現職のムナンガグワ大統領と、最大野党のチャミサ議長の事実上の一騎打ちとなった。事前の世論調査では、ムナンガグワ氏の支持率が40%、チャミサ氏が37%と拮抗していた。
 しかし、大統領選の開票経過が発表されず、投票から2日後の8月1日、「選管が票を操作しているのでは」との疑いを強めた野党支持者が首都ハラレで抗議デモを行い、治安部隊が軍の出動を要請。鎮圧する際に6人が死亡した。
 選管は翌3日未明、大統領選でムナンガグワ氏が50・8%を得票して当選したと発表。チャミサ氏は44・3%だった。なぜ開票の途中経過をもっと早く出さなかったのかは不明だ。
 ともあれ、仕切り直しの選挙をめぐって軍が出動して死者が出たことで、経済破綻にあえぐジンバブエが当てにしていた海外企業の投資意欲はそがれた。
民族紛争の火種
 ケニアでは昨年8月に行われた大統領選で、選管が現職のケニヤッタ大統領の当選を発表したところ、「結果は虚偽だ」として野党指導者オディンガ氏の支持者が暴徒化して警官隊と衝突し、少なくとも24人が死亡、90人以上が負傷した。同国最高裁は選管当局に不正があったと認定した。
 しかし、これは過去の被害に比べればましな方だ。
 2007年の同国大統領選では、不正疑惑を背景とする暴動で1200人が死亡、60万人が避難民となった。当選が発表された現職のキバキ大統領(当時)は国内最大民族キクユの出身で、対抗馬のオディンガ氏はルオ族の出身。選挙結果を受けて各地でルオ族がキクユ族を襲撃する民族紛争に火がついたのだ。
 ルオ族の人々の間には、中央政府に差別的に扱われている-との不満が鬱積しているとされ、有権者は自らが属する民族の候補に票を投じる傾向が強いとみられる。民族間の平等が法的に、また実際に確保できなければ、いつか同様の悲劇が起きるのではなかろうか。ケニアの場合、選挙の公平性以前の話といわざるを得ない。
投票中に「圧勝」
 以前に駐在していたロシアでも、政権側による選挙違反疑惑がたびたび浮上した。2011年12月の下院選の際には、監視員らしき人が大量の票を投票箱に入れたり、1人で何度も投票を繰り返したりする動画がネット上に投稿された。
 ロシアでは零下20度前後まで冷え込む冬場は、反政府デモの人出も少なくなる傾向がある。しかし、このときは極寒の中、首都モスクワで数万人が集結する大規模な抗議集会へと発展した。政治と距離を置きがちなロシア人の怒りが頂点に達したといえる。
 与党側候補に印をつけた投票用紙をスマートフォンで撮影し、翌日、職場で上司にそれを見せなければ解雇の危機にさらされる、という話も聞いた。秘密投票などあったものではない。
 かつてロシアの隣国ベラルーシの大統領選を取材するため、首都ミンスクに出張したときのことだ。投票開始後にホテルで記事を書いていたら、突然、「ルカシェンコ氏が他候補を圧倒している」というニュースが流れた。投票が締め切られる前に勝負が決まったと報じられては、誰も投票になど行くまい。
 ルカシェンコ氏は「欧州最後の独裁者」の異名を持つ。選挙は、体制側の圧勝だったという事実を作るだけのために存在している-といっても過言ではない。
委員長は誰?
 ロシアの選挙では、選管委員長が誰になるかに注目が集まるのが常だった。委員長が体制側の人物であれば、海外メディアはその時点から選挙の公平性に疑問を持ち始めたものだ。日本で選管委員長は誰か、などということを気にする人がどれだけいるだろうか。
 念のため、「不正開票」「不正集計」などのキーワードで日本の選挙についてネットを検索してみたら、2件の問題が出てきた。2015年の相模原市議選と13年の参院選における高松市の選管の問題で、どちらも投票者の数と投票総数に食い違いがあり、白票を操作したとみられる。
 もちろん問題は問題だが、これらのケースは組織的に不正を行ったものではなく、つじつま合わせを迫られたに過ぎない。世界には選挙とは呼べないような選挙が数多く存在する。選管が「縁の下の力持ち」に過ぎない国は幸せなのだ。
 ソフトパワーを売り物にする日本としては、「選挙システム」をまるごと他国に持って行って選挙を仕切ってみてはどうだろう。もっとも、強権的な体制の国ほど受け入れないことは間違いないが。